その男、使用人。

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“税金返せ!”の文字をじっと見る。 こう思っている人が、今日本にどれだけいるのか。 大好きなパパのことを、どれだけの人が恨んでいるのか。  そう思うと、息が詰まるほど胸が苦しくなる。 「授業を始めます。席について」 私の顔を見たノアは、先生が入ってきたにも関わらず立ち上がって自分のロッカーに歩いていく。 先生はちらりとノアのことを見るが何も言わない。成績が常に1位というのは、こういうところでも特別扱いしてもらえる。 ノアは何かを手に取って戻ってくると、おもむろに液体を自分の机にぶっかけた。 ギョッとしていると何やらティッシュで拭き始める。 ツンという匂いから察するに、除光液のようだ。本当に、なんでそんな物を持っているのか… みるみるうちに綺麗に消えてなくなった“税金返せ!”の文字。 もう授業は始まっているのに席を立ってゴミを捨てに行って戻ってきたかと思えば、ガタンと自分の机を私の机にくっ付けてくる。 「な、なに」 「教科書忘れた。見せて」 「またっ…?」 大きな声が出そうになったけど、なんとか寸前でボリュームを下げることに成功。 悪びれる様子もなく私の教科書を真ん中に配置させるノア。 (本当に、なんでこいつがいつも一位なんだ…) ふぅ…と諦めの息をついて板書を始める。 隣でノアはペンも持たずに机に突っ伏し、顔を横に向けて私のことを見ている。 何…?と顔を顰めると、すり…と優しく私の手の甲を指を撫でてきた。 「っ…」 何も言わずに、慰めるみたいに、手を上から包んでくる。 ドキドキするなという方が無理。 ……だから、憎めない。 やめてよそういうの。 あんたのこと、きらい…なのに。
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