その男、使用人。

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「エマ、今日英会話の時間遅かったよな」 「うん。先生の都合で」 そう答えると「りょーかい」と言って、そのままぼんやり空を眺めるノア。 …まさか、また、家を抜け出す気じゃないよね。 遠くを見つめるようなその姿に、なぜだか不安になって、おそるおそる口にする。 「……ノア」 「んー?」 「………もう、やってない、よね」 「何を」 「………」 眉を下げて、黙ったままノアを見つめる。 私の真剣な顔を見たからか、さっきと違って、今度はすっとぼけなかった。 「してねぇよ」 ふ、とたまに困ったように笑うノアは、どこか儚い。 知らないうちに消えてしまいそうで怖くなる。 「エマが、嫌だって言ったから」 そう言ってまた空を見上げたノアから、目が離せない。
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