その男、使用人。

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「エマ。おはよう」 朝食を取りにダイニングへ向かうと、いつもは空席のそこへ座る、優しい笑顔を携えたその人。 ヤツのせいで不機嫌だったことも忘れ、ぱぁっと一気に顔が輝いた。 「パパ!今日はお休みなの?」 「例の一件でマスコミが事務所まで押しかけて来てるからな。今日は1日休暇をもらったんだ」 「あ…そっか」 「きっと、この家の外も張られてる。…エマから目を離すなよ」 「かしこまりました」 私のすぐ後ろにいた憎き男がスっと頭を下げる。パパに手で合図されると会釈して音も無く部屋から出ていった。 パパがいるときには一緒に食事はしない。 でも、パパは忙しくていないことがほとんどだし、ママもアメリカにいるから、あいつと一緒に食べるのが当たり前になってるけど… 久しぶりに朝食がパパと一緒になり、嬉しいけどなんだか緊張する。 私が下りてくるタイミングに合わせて作られたオムレツは今日もふわふわだ。 「学校はどうだ?」 「…うん。楽しいよ」 「…そうか。何かあればすぐ彼に言えよ。同じクラスなんだろう?」 「何もないから、大丈夫だよ」 音を立てないようにお行儀よく食べないと… そう思うとナイフとフォークを持つ手が少しだけ震えた。 あいつと食べる時は何も気にしないのに。なんなら箸を使うくらいだ。
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