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…いつもより朝食の味が分からなかった。
ふぅ、とドレッサーの前で息をついてネクタイを整える。
学校に行く準備を終えて玄関に行くと、リビングにいたパパが見送りに出てきてくれた。
「パパ!」
「いってらっしゃい、エマ」
いつも朝早く出勤しているからこんなことはなかなかなくて、嬉しくなってしまう。
…だけどパパの顔は、やっぱりすごく疲れていて。
今テレビをつければ、どこも不本意なニュースばかり。
誰がパパを陥れたのか…子供で何もできない私は、毎日ヤキモキするしかない。
「っパパ…大丈夫だよ!私、信じてる!パパは何にも悪いことしてないって、きっとすぐにみんな分かってくれるから…!」
「ありがとう。可愛い娘が信じてくれているだけで十分だよ」
「負けないでねっ…!絶対!」
「大丈夫。必ず潔白を証明してみせるさ。…そろそろ行かないと遅刻するよ。行きなさい…彼が待ってる」
振り返れば、同じ制服を着たあいつがすでにそこにいる。
濃紺のブレザーと、超お金持ち私立高校の校章が刺繍された、光沢のあるネクタイ。
私も同じものを身に付けているのに、それを完璧に着こなしているこの男が憎たらしい。
切れ長の大きな瞳に、スッと通った鼻筋。薄い唇。クォーターだからか、色素の薄い髪色は、染めていないのにモカブラウンを思わせる。それを映えさせる、女の私が妬みたくなるほど白くキメの細かい肌。近づいても毛穴一つ見えない。
近くまで来た私を見て、にこりと笑いかけてくるその顔は、学校のお嬢さまというお嬢さまを虜にしている。
…だけどその貼り付けたような笑顔が、私は大嫌いだ。
「行ってきます」
エスコートするように私の手を取ったこの男と、今日も学校という、マウント合戦の戦場へと向かう。
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