636人が本棚に入れています
本棚に追加
───瞬間、奴の空気が変わる。
「お前なぁ」
……きた。
隣の男の顔から、先ほどまでの貼り付けた笑みが消える。
「………なによ」
冷えた瞳が横目で私を見下ろせば、ぞくりと震えてしまうのはなぜなのか。
表情だけで周りの気温さえ下がった気がした。
ちっと舌打ちをして、私の顔を覗き込むその表情は、面倒くさそうであり淡白だ。
さっきとは、まるで別人。
「胸でけぇって言っただけじゃん。褒め言葉だろ」
「〜〜っっ」
綺麗な唇から放たれるそんな言葉に、かぁっと顔が赤くなる。
(もう、ほんとにほんとにほんとに…!)
今朝、着替えを見られた時、奴がぼそっと「…胸でか」と視線を送って来たのを見逃さなかった。
怒ってるのは、それでだ。
着替えを見られたというだけではない。
「っ最低!!」
「はいはい」
「この猫かぶり!!」
「お前がガキの頃言ったんじゃん。家の者がいないときは素でいいって」
「〜っこんなことになると思わなかったの!」
昔、たしかに言った。
でもあれは子供の頃の話で。
あの頃はここまで性格ひん曲がるとは思ってなかった。
ただ敬語が取れる程度のものだと…
最初のコメントを投稿しよう!