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「学校の方が気が楽だわ。最近例の件のせいで旦那さまも家にいること多いしさ」
あー、きっつ。ときっちり締めていたネクタイを緩めるその姿は立派な不良生徒。その片耳ピアスはなぜ容認されているのか分からない。
普通は学校の方が気を張る場所なはずなのに、この男は逆な気がする。こっちがプライベートと言わんばかり。
「…私がパパにチクるとは思わないの?」
「旦那さまはある程度知ってるよ。でもあの人結果主義だから。仕事さえこなせば少々は目を瞑ってくれる」
「…パパの顔に泥を塗るようなことは」
「しねぇよ。現に俺、毎回テストの成績1位じゃん。…見習って欲しいものですね?お嬢さま?」
ふっと笑うその顔すら絵になるから本当にむかつく。
今日2番目のイラッをいただき、思い切り奴の足を踏みつけた。
「、いって」という声を無視して外靴を脱ぐ。
「私の前では素でいいよ」なんて、昔の自分が言ったことに心底後悔しながら、鼻息荒く自分の靴箱を開けた。
───!
だけどまた、バタンっ!とすぐに閉める。
先ほどまでの苛立ちなんて一瞬で吹き飛び、額に冷や汗が浮かんだ。
「…エマ?」
奴が私を呼ぶ。
ドキリと心臓が跳ねた。
家で2人の時や、学校では、奴は私を“お嬢さま”とは呼ばない。
「どうした?」
「な、なんでもない」
「…なんでもなくねぇだろ。どけ、見せろ」
「!っちょ、」
ぐい、と横に押されて、躊躇いなく私の靴箱を開ける。
途端に漂ってくる、異臭。
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