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そんなある日、俺の今後の人生を大きく左右する出来事が起きた。
「その才能はもっともっと磨くべきだ。僕がダンスのコーチを任されている場所で、二年に一度、海外にダンス留学をするプログラムがある。向こうの中学校に通ってもらうことになるんだけど、推薦だから費用は全部こちら持ち。枠は一人だけだから、悪い話じゃないと思うんだけど」
十二歳の冬。ダンススクールにやって来た知らない男の人がいきなりそう声を掛けてきて、「興味があるならうちの事務所に見学に来てみて」とだけ言い残し、名刺を渡していった。
それがどうやら大手の芸能プロダクションだったらしく、姉ちゃんも兄ちゃんも大興奮。
方や母親はいつも通り温厚な笑みを浮かべて、「はっくんはどうしたいの?」と俺の気持ちを聞いてきた。
その問い掛けに対し、「わからない」それが俺の率直な想いだった。
だってダンスは楽しいけど、海外ってことは周りは知らない人ばっかりで、言葉だって通用しない未知の世界。
それに大好きな家族と二年も離れるなんて、そんなこと考えたこともないし、絶対寂しいに決まってる。
「それなら一度、見学に行ってみようか。はっくんの人生なんだから後悔しない道を選びなさい」
その母親らしい温かい言葉に頷き、後日、一緒に見学に行くことになった。
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