底なし沼

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キッチンで2人分のコーヒーを準備しながら、私はにまにまと頬が緩みっぱなし。 嬉しい。ここのタルトを食べられるのももちろんだけど、そんな些細なことを覚えてくれていたことがすごく嬉しかった。 少しずつだけど、前よりも距離が縮まっているような気がする。 いつのまにか手を洗って戻ってきていた彼方。部屋の本棚の上にある写真立てを手に取っている。 「あ、これ、この写真。いつのかなって」 「それは家族でハワイ行った時のだよ」 「小学生くらい?真白幼い」 「たぶん小3くらいじゃなかったかなぁ…」 「そっか。前はゆっくり見れなかったからさ」 ………ん? “前”? やっぱり来た時から、引っかかることがいくつもある。 「…あの春野くん…その“前”って…」 カシャ ───?! なぜかその写真を携帯で撮り始めた彼方。 驚きすぎて質問が途中で終わってしまった。 「な、なんで撮るの…?」 「え?貴重だから」 「貴重…?何が…?」 「気にしないで。ほらタルト食べよう?」 首を傾げる私に彼方はにこっと微笑んで、その話は強制的に終わりとなった。
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