底なし沼

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「……は?」 地の果てのように低くなった彼方の声。 窓は閉めているのに、ヒュオッと氷のような空気が流れ込んできた気がした。 「え?」 「あいつ…来たことあるんだ?」 「あ…うん」 「なんで?何しに?」 尋問するように問いかけてくる彼方。 その迫力に押されながら、ただ事実を話す。 「一緒の講義取ってるから、課題したり、それだけだよ?」 「へぇ…2人きりで?」 「…あ…大学から離れてるから、他に近く住んでる子もいないし…」 「別に真白の部屋でする必要ないよね」 「…っ…」 なぜ必死になって弁解させられているのか分からないけど、どんどん顔が怖くなる彼方に、私は焦る一方で。 「言っとくけど、俺、共有されるのとか嫌いだから」 「きょう、ゆう…?」 「俺以外とヤッたら、捨てるよ?」 そんな言葉に、ひゅっと喉が鳴った。 “捨てる” それ以上に私を動揺させる言葉はない。 想像するだけで血の気が引く。 そして改めて実感した。 自分の“セフレ”という立ち位置を。 私は、恋人なんてほど遠い、彼の気が向いた時にだけ相手をしてもらえる存在。 簡単に“捨てる”という言葉を口にできる彼と、気持ちの差は一目瞭然。 「…春野くんとしか、しないよ…っしたこともないし、これからもしない」 「ふーん、言い切れる?」 「言い切れるよ…っだって、私が好きなのは、春野くんだもん」 「じゃぁもう、俺以外家に上げないよね?」 「うん…分かった」 自分は他で好きにするけど、私のことは縛り付ける。 でも、何も言えない。 それでもいいと、この関係を私が望んだ。 惚れたもの負けって、こういうことを言うんだろう。
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