限界

11/15
前へ
/203ページ
次へ
「すいません…あの、やっぱりもう1箇所いいですか…すぐそこなんですけど…」 半泣きになりながら運転手さんに言うと、優しく笑ってくれた。 「いいよ。…彼氏大丈夫?」  「いや彼氏じゃないです」 「あ、そうなの?」 それだけは即座に訂正して、自分の住所を告げる。 すぐに家に着いてお金を払おうとすると、運転手さんが笑って手を振ってくれた。 「お金いいよ。すぐそこだったし」 「えっ、で、でも…」 「彼、大変そうだし、今回だけ特別」 「…っ、ありがとうございます…!」 お金のない大学生にとってこんなにありがたいことはない。 深々と頭を下げてタクシーを降りると、「お酒もほどほどにね〜」と笑いながら扉を閉めて走り去って行った。 なんて優しい世界なんだ… どうしよう、と途方に暮れていたけど少し元気が出て、よし!と気合を入れて祥太郎を支えて歩く。 「もうちょっとだから頑張って」 「…、?……真白…?」 「そうだよ……何、今更…?」 「……ここどこ…」 「私の家!あんた鍵忘れたから家入れないの!」 「そうだっけ」 まったくもう… 祥太郎って本気で酔うとこんな感じなんだな。 なんかあんまり喋んないし。 また無言になった祥太郎を引きずってアパートの階段の前まで行く。 …うわ。祥太郎支えて上るの無理かも… と絶望していたその時。
/203ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1360人が本棚に入れています
本棚に追加