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『私も特に組む人いなくてさー。ねぇ、有野私と、』
『雪原さん』
そんな時、透き通るように綺麗な声が聞こえた。
振り返ると、みんなの視線という視線が私に向けられている。
『…へ…?』
雪原真白。私のフルネーム。
冬生まれ?と初対面の人にはだいたい聞かれる。
そんな寒々しい私の名前が、さっきまで争いの渦中にいた、美しい彼に呼ばれたらしい。
彼方…春野くんとは、同じクラスになってから数回しか話したことがないし、特に親しいわけでもない。
万年三軍の私には、一軍の中でもトップにいるような春野くんは縁遠い人だった。
それなのに。
『よかったら、俺とペア組まない?』
ザワッと教室内が揺れた。
あちこちから甲高い悲鳴も聞こえる。
私の頭の中はハテナマークでパンク寸前。
え、私…?え?なんで??
訳がわからなすぎて頭が混乱する。
『え?えっと、あの…』
女子たちの視線が突き刺さる。
しどろもどろになりながら、横にいる有野に助けを求めたが、奴は素知らぬ顔。は、薄情者…!
『だめ、かな…?』
『っ』
形のいい眉が少し下がり、綺麗な顔が寂しそうに歪む。
学校のアイドルにそんな顔をさせて、断れるはずもなくて。
『よ、よろしくお願いします…』
『本当?よかった』
『私なんかでよければ…』
こうして、なぜかカースト最上位の春野彼方とフォークダンスのペアになってしまった。
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