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「お前さ、いい加減忘れれば?」
半分以上減った生ビールを片手に、目の前の男が顔を顰めて言う。
「うるさい…簡単に忘れらたら5年も引きずってない…」
かくいう私はまだ少しも減っていないカシオレを指でつつきながらいじけていた。
ちなみにまだ一杯目。お酒は苦手だ。
奴はそんな私を呆れた顔で見ながらテーブルの枝豆を摘んだ。
「振られた理由が分からない。それが余計にお前を沼らせてんの。お分かり?」
「…だっていくら考えても分からないんだもん。なんで私振られたの?あんなにラブラブだったのに…」
「もうそれ中学から100万回聞いた」
「…そういう祥太郎も全然彼女と長続きしないじゃん」
「彼女できるだけマシだろ」
「うざ」
威張るな、とテーブルの下で祥太郎の足を蹴ったつもりが隣の後輩の足だったようで「痛っ」と声を上げた後輩にてへぺろしておいた。
「真白ってこの季節になると絶対あいつのこと思い出してセンチメンタルになるよな」
「いやオールシーズン思い出してます」
「うわおっっも」
「あれは秋の虫の声が響く夕暮れ時…その横顔に私は恋に落ちた…」
「やめろやめろポエム読むな」
本気で嫌そうにあしらうもんだから「何よぉぉ!」とポカポカ祥太郎を叩いた。
それが楽しそうに見えたようで、サークルの同期たちがグラス片手に楽しそうに寄ってくる。
「なになにまた喧嘩してんのあんたたち」
「だって祥太郎がぁ」
「いやお前だろ」
「中学からの同級生だっけ?え、高校も一緒なん?」
「そう腐れ縁」
そんな会話をしながら、いじけてグビグビカシオレを飲んだ。
半分くらいしか飲んでないのに、顔が熱くなって心拍数が上がる。
両親も超下戸で遺伝的にも本気でお酒が弱い私はすぐにへろへろになってしまう。
ぺたんとテーブルに頬を預けると、いつもの如く祥太郎が私のグラスを奪い取ってジュースのようにそれを飲み干した。
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