26人が本棚に入れています
本棚に追加
「…っ……彼方…っ!!」
一瞬我を忘れて、5年ぶりにその名を呼んだ。
ハッと我に返ったのは、みんなの驚いたような視線に気づいてからで。
さぁ、っと血の気が引いた。
「、あ…っえと…」
視線が痛い。特に女子たちの。
きっと彼が姿を現した瞬間から、どうやって親しくなろうかと作戦を練っていたはず。
それなのにこんな三軍の私が彼の名前を口にしてしまった。
女独特の、あの空気。
首を絞められているように、息が詰まる。
「え、真白知り合いー?」
「…っ、…」
呑気な男の先輩が尋ねてきて、さらに困り果てることになった。
…知り合い?
中学の同級生?友達?
───元カレ。
ぐるぐると思考を巡らせていると、私に一瞬だけ視線をよこした彼。
軽く首を傾げ、冷たい笑みが口元に刻まれる。
「…ごめん、誰だっけ?」
ガン、と頭を何かで殴られたような音がした。
本当に殴られたわけないのに、ショックのあまりふらついた私の腕を祥太郎が思い切り引っ張り強制的に座らせる。
ぶわっと涙が溢れ出そうになった。
「やめとけ」
「っしょうたろ…」
「泣くな変に思われんぞ」
バサッと雑に祥太郎の上着を頭から被せられ、前が見えなくなったけど、このときばかりは感謝した。
きっと、ひどい顔しているだろうから。
最初のコメントを投稿しよう!