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ようやく涙がおさまったところで、もう少し気持ちを落ち着かせようとお手洗いに行った。
手を洗って廊下に出ると、隣の男子トイレから誰かが出てくる。
ドクン、とまた心臓が鳴った。
相手も私に気がついて、その綺麗な瞳と目が合う。
「…っ…」
どれだけ平静を装ったって、彼が視界に入るだけで一瞬で引き戻される。
色素の薄い栗色の髪。色白で透き通った肌。顔のパーツすべてが整っていて、目元の泣きぼくろが美しい儚さすら演出する。
本当に綺麗な顔。それは昔から変わらない。
こんな人が私と付き合ってくれていたなんて、奇跡だって分かってる。
振られた身だということも重々承知。
それでも…忘られなかった。
ずっと会いたかった。
会いたくてしかたなかった。
振られてすぐ海外に行ったと噂だけで聞いた。
もう会えないと思っていた。
それなのに今、手を伸ばせば届く距離にいる。
私は顔を合わせるだけで胸が締め付けられて泣きそうになっているのに、彼はふいっと目を逸らすとそのまま席に戻って行こうとする。
「っ…待って…!」
たまらず引き止めてしまった。
情けないほど震えた声だった。
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