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「あの…本当に、覚えてない…?」
ぎゅっと手のひらを握って、下を向く。
往生際が悪いのは分かってる。
誰?と言われて、瀕死状態になったばかりなのに、また自分から死ににいってる。
それでも、わずかな希望が捨てられなくて、彼に問いかけてしまった。
彼は私と目も合わせず、相変わらず表情は読み取れない。
「…悪いけど、」
「っ中学の時の、真白だよ…!」
惨めだなぁ。
覚えてないって言われてるのに、自分から名乗ったりして。
それなのに、諦めきれない。
『真白』
透き通るような声で、甘く呼ばれるのが好きだった。
『彼方』
私が呼ぶと、いつもすぐに振り返って優しく笑ってくれた。
………彼方。
思い出して。
忘れたなんて言わないで。
私、まだこんなに…
「何ヶ月か…だったから覚えてないかもしれないけど、私、あなたと…っ」
そこまでしか、言えなかった。
なぜか私の体が、彼の黒い影に覆われていたから。
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