上書き

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「───彼方…?」 呼びかけると、その瞳が私に向けられるのが分かった。 いつのまにか景色は室内になっていて。 ベッドに寝かされているのが分かった。 私の家ではない。ホテルでもない。ぼんやりと見慣れない景色が広がっている。 「………うん」 返事をした彼が、優しく私の髪を梳く。 最近の彼からは、考えられないような仕草だった。 「ふふ…彼方、優しい。付き合ってた頃みたい……でもちょっと意地悪な彼方も、好きだよ」 完全に酔っ払っている私は、自分が“彼方”と呼んでいることも、そんなことを口走っていることも知らず、ふふっとまた笑う。 「ねぇ…ここ、どこ?」 「…俺の家」 「彼方の?」 「うん…こうでもしないと、逃げるじゃん、真白」 ギ、とベットが軋む。 額に柔らかいものが優しく触れた。 冷たくて気持ちいい。 「ん…もっと…」 「ま、しろ」 「冷たくて、気持ちいい」 頬に触れたひんやりとした手に擦り寄ると、その手がピクリと反応した気がした。 ギシ、とまたベッドが軋んで、体に少し体重が乗る。 音もなく、唇と唇が触れ合う感覚がした。 「っ…ん」 「…あれ以来、俺以外とキスした?」 あれ以来…? 彼方と体を重ねた日は、キスはしなかった。 じゃぁ、いつのことを… 「っん、んぅ…」 でも私は、この舌の感触を知っている気がする。 気持ちよくて、抗えない。 口の中が、溶け合うみたいな… 「…っ…んん…」 「…っ真白…」 「っ…ふぁ……かな、た」 「……っはぁ…やっぱ無理…」 ぎゅう、と抱きしめられて、熱い吐息が耳に触れる。 「ねぇ…あの日のやり直しって…きく?」 それから、本当にあの日を塗り替えるような、とびきり甘い時間が始まった。
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