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「……よかった…」
「…よかった?」
ポツリと小さな声で言ったのに、彼方は聞き逃さなかった。
アルコールの力を借りて、ぎゅっとその首に抱き付いた。
「ちゃんと気持ちいい…。最初ずっと痛くて、私、人と違うのかなって…」
そう言うと、少し体を起こした彼方がまじまじと私の顔を見た。
それが後悔しているような、悲しそうな顔に変わり、私まで悲しくなる。
今日は彼方にそんな顔ばっかりさせてる。
「っ痛いに決まってるじゃん…っ初めてなのに、大して前戯もせずに突っ込んだんだから…」
前戯が何かよく分からなかったけど、彼方が申し訳なさそうにしてるから、大丈夫だよ、とその頭を撫でた。
ゆらゆらと瞳を濡らした彼方が私を見つめる。
ちゅ、と唇にキスが落ちて、それを合図に始まる律動。
痛いなんて感じることは一度もなかった。
私の表情の変化をひとつも逃さないように、甘い瞳でずっと見つめてくれる。
そんな彼方が…やっぱり、どうしても、好き。
いくらひどいことをされたって、この優しさが今だけのものであったって、どうすることもできないくらい。
でもそんな感情…彼方は望んでないよね。
「あ、あっ…かなた、っ」
「っん、ましろ」
「っ……、…ごめん、ごめんね…っ」
うわ言みたいにそう伝える私の口を塞ぐように、彼方が深いキスをしてくれた。
「っだから、なんで謝るの…」
苦しそうな彼方の声。
ぎゅっと抱きしめられて、私の涙が彼の肩を濡らす。
好き。大好き。
ねぇ、私…どうしたらいい──?
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