見えない首輪

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「春野くん…服、ありがとう」 「いいえ」 「…あの、今日…ズボンは…」 「ないよ?」 「………」 そんなことにももう驚かなくなってきて、とりあえず必死でシャツの裾を伸ばしてパンツを隠す。 バイトの後、急に呼び出された日に着替えがなくて彼方の服を借りたことがあった。 なぜか彼は、それがやけにお気に召したらしく。 それから下着以外の着替えを持ってくるのを禁止され、用意されたものを着るんだけど、彼の気まぐれによってたまに下に履くものをもらえない。 私の太腿なんか見たって仕方ないだろうに… 「真白、ココア飲む?」 「!飲むっ」 「おいで」 キッチンにいる彼方に呼ばれて、たたっと駆け寄っていく。 ココアの入ったマグカップを渡されると、ふわりと甘い香りがした。ほかほか温かくて、思わず頬が緩む。 嬉しい。ココア好き。 「…尻尾が揺れてる」 「へ?」 「なんでもないよ。座って飲みな」 「うん!」 とととっ、とリビングに戻ってカーペットの上に正座して座る。 まだ熱いそれをふぅふぅ冷ましながら飲んでいると、隣に来た彼方がその様子をじっと見ていた。
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