底なし沼

1/7
前へ
/97ページ
次へ

底なし沼

週に一度のサークルのテニスの日。 すごく気分転換になるから、私はこの時間が好きだ。 「真白よっすー」 「やっほー。祥太郎来てる?」 「いるよ。あそこ」 同期が指差す先に靴紐を結んでいる祥太郎の姿。 この男は常に黒髪で、せっかく大学生だというのに一度も染めたことがない。 「祥太郎〜」 「よぉ」 「打ち合いしよ」 「おけ」 私も準備をして2人でコートの中に入った。 アップがてら、はじめはゆるーくボールを打ち合う。 ゆるーくと言ってもさすが男子と言うか、祥太郎の打つボールは結構重い。 打ち返しながら、ネットを挟んで話しかけた。 「ねー!」 「あー?なに?」 「今日飲み会行くーっ?」 「聞こえねー!」 「飲み会行くー?!」 「どっちでも!」 どっちでもってなによ。 祥太郎はよくこういう返事をする。 行こうよ、と言えばだいたい来るんだけどね。 「そろそろガチでいくぞー」 「祥太郎は右手ね!」 「へいへい」 祥太郎は両利きで、でもテニスは基本左打ち。 右手でも打てるけど…というレベル。さすがに男女では体力に差があるから試合をする時は右打ちでしてもらってる。 この間の合宿でもそうしてくれて、それでようやく互角だった。まぁ結果的には負けたけど…
/97ページ

最初のコメントを投稿しよう!

26人が本棚に入れています
本棚に追加