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家柄
物心ついた時から、家が嫌いだった。
正確に言えば、“家族”が嫌いなんじゃない。
───“家柄”。
「お疲れ様です。───愁しゅうさん」
暗い廊下ですれ違った誰かも分からないやつに頭を下げられる。
無視して足を進め、1番奥にある階段を登ると見慣れた扉がある。
扉を開けるとすでに中にいた40代くらいのスーツ姿の男が慌てて立ち上がって俺に頭を下げ、いつものように報告をする。
「特に問題ありません」
「…分かった」
大学を卒業したばかりのこんなクソガキに、大の大人が敬語で話すへりくだった態度。俺が上司の息子だからって。本当にくだらない、この世界。
男が出て行った後、黒の革張りのソファに腰掛ける。
画面が分割されたいくつもの防犯カメラのモニター。
それを色のない目で眺めながら、上からだだっ広いフロアを見下ろす。
ミラーガラスのようになっていて、フロアからこちら側は見えないようになっている。
そこには今日も頭の悪そうな連中が馬鹿でかい音楽に合わせて狂っている。
深夜0時。
だいたいそのくらいの時間にクラブに顔を出す。
特に時間は決まっていない。
何時に来て何時に帰ったって、俺を咎めるやつは誰もいない。
俺が、“そういう立場”の人間だから。
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