乾杯

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乾杯

あの夢のようなプロポーズから数週間が経った。 せっかく将来を誓い合えたのに、愁の仕事の時間と私のシフトが上手く噛み合わず、ゆっくり部屋で過ごすどころか、入れ違いになってまともに顔を合わすこともできなかった。 仕事だから仕方ないとはいえ、やっぱり寂しい。 そして今日ようやく、お互いの仕事終わりにゆっくりと会える。明日は2人とも休み。 早く会いたい。すぐ会いたい。 日勤を終え、先に仕事が終わっているであろう愁の待つマンションへ早足に向かった。 最上階だからエレベーターに乗っている時間も長い。いつもは気にならないそれも、今日ばかりは貧乏揺すりしそうだった。 ようやく部屋に止まると、バタバタと中に入りリビングに飛び込む。 勢いよく扉を開けた私に愁が驚いた顔をしているのも構わず、思い切り抱きついた。 「っ、」 「会いたかった…」 ぎゅう、と力を込めてもまだ足りない。 すりすりと愁に頬擦りする。 あぁ…いい匂い。 この癒される匂いも、抱きつくと頭を撫でてくれる手の感触も、落ち着いた雰囲気も。 「俺も会いたかったです」 この、感情のこもらない声色も。 全部が本当に久しぶり。 愛しのマイダーリン。 「…本当に思ってる?」 「思ってますって」 「その顔で?」 「なにその顔って」   相変わらず低燃費な彼。 あんなに熱いプロポーズをしてくれた人と同一人物とは思えない。 もうちょっとなんかこう、さぁ… むぅ、と口を尖らせていると、その唇にちゅっとキスされて、拗ねないでと言うように柔らかく上唇は食まれた。 久しぶりに触れたその感触に、もっと、とスイッチが入ってしまい、愁の首元に手を回す。 舌を出して続きを催促すると、それに少しだけ応えて、葛藤の色を見せる愁。 疼く体を抑えられなくて足をその腰に絡ませると、彼が困ったように笑った。 「…夕飯食べて一緒に飲んで、もっとゆっくり話したりする予定だったんですけど」 「…ん、あとでしよ…?」 「…シャワーは?」 「あとで…」 「一緒に?」 「ん、一緒に入るからっ……ね、早く」 「待って。ベッド行こ」 ようやく口調を少し砕けさせてくれた愁に抱かれ、寝室へと向かう。
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