オフ会

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オフ会

 十月になって少し涼しくなった。 ママとスーパーに買い物に出た時に、小学校の近くを通った。校庭に体操着姿の皆が並んで集まっていた。 笛や音楽に合わせて皆があちこちに向きを変えて進んでいく。少し離れた場所で、僕はその光景をじっと見つめていた。ママも僕に気づいて立ち止まった。 「そっか。もうすぐ運動会だね」  体育は楽しかったのは覚えている。今でも休み時間に皆でストレッチや軽い運動をしたりするけど、部屋の中で走るのは無理だ。だから、休みの日にパパとランニングしたり、サッカーしたりするのは爽快で、心も体も喜んでるのを実感する。 「あすなろでは無理かなぁ」  ママが呟いた。 「どこか広いところで、皆と遊べたらいいのにね」  直に触れあったことはないけど、あすなろの皆のことはもちろん大好きだ。一緒に走ったりボールを追いかけたり出来たら、どんなに楽しいだろう。 そんなことを考えていたのは、僕たち家族だけじゃなかったようだ。封書で届いたあすなろからの手紙に、パパとママは声を上げた。 「朋くん、オフ会だって!」 「オフ会って何?」 「朋がいつもやってるのはオンラインだろ。画面の外で実際に会って、お話したり遊んだりすることだよ」 「えっ。葵に会えるの」 「葵くんが望んでいれば、もちろん」 会いたいな 葵もサッカーが大好きだ。パスのやり取りもリフティングやドリブル対決も出来るかもしれない。葵が実際に動いて喋る姿を想像して、僕は急にわくわくしてきた。 翌日、朝の会の前にオフ会の話を切り出すと、葵は少し顔を曇らせた。 『ああ。その話なら聞いたけど…』 「僕、葵とサッカーしたいなって思ってさ」 『ありがと。それはすごく嬉しいよ』 「…でも、嫌なの?」  いつもの葵らしくない。初めは僕と会いたくないのかと思ったけど、何か違うみたいだ。 『ううん、ごめん。朋には会いたい。だけど、大勢で行動するのは苦手なんだ』 「そう、か…」  葵は落ち込んですっかり元気をなくしてしまった。僕は自分が楽しみだったから、葵もきっと同じ気持ちだと思っていたけど、予想してない答えにどうしていいかわからなくなってしまった。 そろそろ先生も他の子たちもやって来る。また後で話そう、と声をかけようとした時、葵が真顔で僕に言った。 『二人だけで会えないか』 「…僕たちだけで?」 『正確には、オレと朋の家族だけで』  葵はすがるような目で僕を見ていた。何を怖がっているのかわからなかったが、そのくらいの願いを叶えるのは出来そうだと思った。 「わかった。パパとママに聞いてみるよ」 『ホントか』 「うん」  葵がやっと笑った。僕も嬉しくなって、画面に向かってピースサインをして見せた。
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