朝の風景

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朝の風景

 僕が朝ごはんを食べ終えると、ママは洗い物を済ませて、仕事に出かける準備を始める。 「ごちそうさまでした」 「うん。歯磨きしてね」  面倒だけど、これは家族で決めた約束のひとつ。今まで通りに行動すること。それに、歯みがき粉のミントでスッキリすると、少し大人の気分になる。 パジャマから半ズボンとTシャツに着替えた。寝癖がついてないことを確認して、僕はママに声をかけた。 「行ってきます」 「行ってらっしゃい」  ママもやっと週三の出勤が出来るようになり、フルタイム復帰を目指している。 それから自分の部屋のドアを開けて机に座った。 タブレットのアプリを起動させて、パスワードを打ち込む。しばらくして何度か画面が切り替わり、(さとし)先生の顔が映った。 『(とも)くん、おはよう』 「おはようございます」 『今日も元気だね。よく眠れたかな』 「はい」 『よかった。もう少ししたら出席取るから、準備して待ってて。一時間目は算数だったね』  先生が手を振ると笑顔が小さくなった。いくつかに分割された画面には、すっかり顔なじみになった友達が次々に登校してくる。皆には実際に会ったことはない。僕たちはオンラインスクールの仲間だからだ。 僕は算数の教科書とノート、筆箱を用意して朝の会の時間を待った。 『おーす! 朋』  画面にいきなり(あおい)の声が響く。 「びっくりした! おはよう」  音割れ寸前の元気のよさに僕は笑いをこらえた。 『オレ、宿題忘れちゃったよ』 「算数の? それはヤバいね」 『今日に限って一時間目だもんなー』  葵が歯を見せて笑う。通っていた学校は違うけど、初日に真っ先に声をかけてくれた同級生だ。 『ここは自分のペースでいいって言われたからさ。楽しみにしてたんだ』 『でも、やっぱり不安だな』 『大丈夫だ。オレがついてる。わかんないことがあったらオレに聞け』 『…君も今日からでしょ』 『そーだった。まあ、何とかなるって』  明るくて素直で、悩みまでも吹き飛びそうな葵の笑顔に、僕は安心して気が楽になった。でも、僕も葵も言葉には表せない気持ちを抱えている。ここにいる皆がそうだった。 『揃ったかな。じゃあ、朝の会始めるよー』 哲先生の声に、僕はおうちモードを切り替えた。
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