幸か不幸か。

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「なんで怒ってるか分かんない?」 低い声で、静かに問い掛けられる。 その威圧感に、思わずゴクリと喉が鳴った。 何も答えられなくて黙っていると、グッと顎を掴まれる。 「っ…」 「俺がお前のこと、大して好きじゃない?」 「…り、き…」 「ふざけんな」 強引に口付けられて、目を見開く。 舌を絡め取られ、食べられるようなキスに、すぐに息が上がった。苦しくて目に涙が溜まる。 「っ…はぁ…」 ようやく唇が離れると、2人の間に透明な糸ができて、すぐに切れた。 「んなこと言ったら絶対許さねぇ」 「……っ…」 「なぁ、聞いてんの?」 整わない息のまま下を見ていると、指で強引に上を向かされる。 見えた理希の顔は、すごく怒ってる…ように見えて、瞳の奥は悲しげに揺れている気がした。 それを見てズキンと胸が痛くなる。 「だって…」 「だってじゃねぇよ」 「…理希が…私の好きなところないとか言うから…」     小さい声でゴニョゴニョ言うと、それを聞いた理希が呆れたようにため息をついた。 「そんなんどうでもいいだろ」 「どうでもよくないっ!」 「はぁ?めんどくせぇな」 「っ…」 面倒くさい。 そんな言葉にまた泣きそうになる。 ゆらゆらと目に涙で膜を作り始める私を見て、理希がグシャ、と自分の髪を乱した。 「泣くなよ」と困ったように呟いて、震える私の肩に額を乗せる。 「理由なんかねぇよ」 そう言う理希の声は、決して冷たくはなくて。 黙ったままの私に向けて、切ないような、少し掠れた声で続けた。 「いつかも分かんないくらい前からお前のこと好きなんだよ。鈍臭いし面倒くさいくせに意味わかんねぇくらい可愛いんだよ。いいだろそれで」 思いもしなかったそんな言葉に、心臓が脈打つ。 かぁっと赤くなって、代わりにみるみるうちに冷めていくさっきまでの苛立ち。 …好きって言った?可愛いって? 理希が?私に? ようやく荒れ狂っていた心情が落ち着き、同時に言われたことも理解してくる。 ドキドキと鳴り始める心臓は本当に単純だ。 「……本当?」 「こんな嘘言わねぇ。……納得したかよ」 「……うん…」 「あっそ」 素っ気なくそう言った理希は私から離れて部屋に入っていく。 疲れたようにドサっとソファに仰向けで寝転んで、片腕を目の上に置いていた。
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