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ナナが急に『明日から働く』と言い始めた時は、まじで勘弁してほしかった。
あんなに危なっかしいのに、組関係の企業とはいえ、ほぼ1日中目の届かないところに居られるなんて気が気じゃない。
それに俺には一言もなく、葉月さんに相談していたと知った時はさすがに腹が立った。
確かに俺は葉月さんみたいに人脈ないし、人と会話するのも好きじゃないし、喧嘩も強くない。
それでも何かできることはあると思うのに。ていうか働かなくても、この先俺が一生金に困らない生活はさせてあげられる。
だけどそんなこと言える訳もなく、俺の考えていることが分かる訳もないナナは、俺の怒った態度に、ポロポロと泣き始めてしまった。
『っきらいに、ならないで…っ』
って、なる訳ないじゃん。そんなんで突き放せたら苦労しない。
俺の方が、とっくにナナに依存してる。
この前恭子さんに会った時、思ったよりも平気だったのも、ナナのおかげだ。
恭子さんがナナを追い詰めようとした時、自分でも驚くほどの怒りと、ナナを守らなければという気持ちの方が強かった。
ここ最近俺の体調がいいのも、不眠症が改善されたのも、精神的に安定しているのも、ナナが傍にいるから。
だけどそれとこれとは話は別。
でも結局ナナの涙に負けて仕事を許してしまった俺は、朝送り出したものの、あまり仕事に集中できなかった。
葉月さんから仕事の電話がかかってきて、本当に鋭いこの人はすぐに俺の様子に気がつく。
『何だお前機嫌わりぃな』
「…誰のせいだと思ってんの」
『は?…あー、ナナの出勤今日からか』
「まじで何してくれてんの?」
『何ってナナが働きたいって頼んでくるから』
「余計なことしないで」
『あんまり首輪つけてると、噛み付かれんぞ。ほどほどに自由にさせとけよ』
「なにそれ経験談?」
『うるせぇ』
そんな会話をして、電話を切る。
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