初めまして?

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初めまして?

その女は、突然葉月さんが連れてきた。 「…は?」 信じられない言葉が聞こえて、思わず聞き返す。 「だから。こいつ今日からしばらくここに居させるから」 「意味分かんないんだけど。ていうか誰」 思いっきり顔を顰めて、葉月さんの後ろで隠れるように佇んでいるその女を見る。 黒髪のセミロングに、大きな瞳。白い肌。 純粋で何も知らなさそうなその顔は、緊張しているように強張っている。 「今日お前が仕事で助けた女だろ。外国に売られるために地下にいたやつ」 「あのろくでもない親のところに返すって聞いてたけど」 「その親が自殺した」  「………」 「大方娘を売っても借金を返しきれなくて自滅したんだろ。クスリも手出してたみたいだし」 こっちの世界で生きているとそんなこともめずらしくないから、別に驚かない。 同情もしない。俺には関係ないし。 「だからってなんでここに置くんだよ」 「俺が決めた。決定事項。お前の意見は聞いてねぇ」 「…あんた、俺がどんな人間か知っててそういうことすんだね」 葉月さんは、俺が所属している神影会の幹部。はっきり言えば、ヤクザ一家の次男。  幹部といっても、この人は常に抗争の最前線にいるような人で、上から口だけで指示を出すようなタマじゃない。 トレードマークの金髪にピアス、太陽の入れ墨。その整った顔が、威圧的な雰囲気に拍車をかける。 この人の無茶振りには慣れてるけど、今回のはいくらなんでもありえない。 葉月さんは何を考えているのか分からない顔で、納得いかない様子の俺を見下ろす。 「お前のためでもある」 「…意味分かんない。あの屋敷にでも置いとけばいいでしょ」 この人、あの翠って女といるようになってから随分丸くなった。 前は何に対しても冷めてて、全てに興味がないって感じだったのに。最近は人間味があるというか。 顔を背けて悪態をついている俺に、葉月さんがため息をつく。  「ずっとじゃねぇ。事が落ち着くまでの間」 「…その女どうなっても知らないよ」  「それはこいつも了承済み。お前がどんなやつであろうと前の生活よりは何倍もいいって」 「………」 たしかにこの女が最近までいたビルの地下は人間が住むようなところではなかった。 どこからかの依頼を受けて葉月さんが俺に指示を出し、システムにハッキングしてセキュリティを破り、この女を逃した。 こういうのが俺の仕事。 常にパソコンと向き合っているため、仕事の時だけかけているブルーライトカットつきの眼鏡。それを乱暴に外してデスクの上に置いた。 くそ、こんなことになるならずっと閉じ込めときゃよかった。 「ほら挨拶しとけば?」 そう言って葉月さんがその女を俺の前に押し出す。
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