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特に何もしていないのに疲れて、ふぅ…と椅子に深く座り直した。
…首輪って何。そんなもの、付けてるつもりはない。
だけどすぐに、ナナをこの部屋から出したくないと思っているこの感情こそがまさにそれだと気がついて、首の後ろに手を当てた。
俺、思ったよりも重症かも。
こんなにだれかに執着するなんて、あの子以来だ。
ほとんど洗脳からきていた恭子さんへのそれとは全く違う。
自分の意志で、そうしたいと思っている。
…噛み付かれる、か。
またため息をついて、目を瞑る。椅子にもたれかかり天井を仰いだ。
ちょうどそこで、ガチャガチャと鍵を開ける音が聞こえて、目を開ける。
時計を見ると、16時15分。仕事は16時までだと言っていたから、本当に職場はここから近いらしい。
廊下からトタトタと小さな足音が聞こえた。
黒髪をさらりと揺らし、ナナが遠慮がちにリビングに顔を出す。
「あ…た、たただ、」
「……?」
「…た、ただいまっ」
慣れない言葉が恥ずかしいのか、ナナが顔を赤くしてモジモジしている。
…このチワワみたいなのが噛み付いてくんの?
「…おかえり」
俺がそう言葉を返すとナナは嬉しそうに笑った。
働かれるのは嫌だけど、こんなやり取りは悪くないと思ってしまった。
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