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もう少しゆっくりすればいいのに、すぐに洗濯物をしまい始めたナナが今度は夕飯の準備するために台所に立った。
と思ったら、シンクに下げられたお皿を見て口元を緩ませ、俺の方を見てくる。
パソコンで経済ニュースを流し見ていた視線を上げると嬉しそうなナナと目が合った。
「…なに?」
「オムライス食べてくれたんですね」
「そりゃ、食べるよ。ナナのオムライス好きだし」
これは本当のことで、ナナが作ってくれたオムライスは卵が半熟でとろっとしていて本当においしい。
というか、最初こそ俺が苦手な食べ物も多かったものの、俺の些細な感想も聞き逃さないナナの料理はどんどん俺好みになっていった。
今では完食できない日はほとんどない。
俺の言葉を聞いてナナはトコトコとこっちに来ると、椅子に座っている俺の横からぎゅうっと抱きついてきた。
突然のことに目を丸くしていると、ナナが小さな声で呟く。
「…こんなに長い時間ルイさんと離れるの初めてだったので…」
「………」
「…すぐ離れますから、少しだけ…」
そんな可愛いことを言うナナの頭を引き寄せて、そっと撫でようとした瞬間、かすかに男物の香水の匂いがした。
途端に気分が悪くなって顔を顰める。
ぐい、とナナの体を引き離すと、その表情はすぐに泣きそうなものになる。
「あ…ごめんなさい…っ迷惑、でしたよね…」
勘違いしているナナに、前ならわざわざ説明なんてしなかったけど、そうするとこの子は何でもネガティブな解釈をすることをもう学習した。
「男の匂いがする」
「え…」
「こんな匂いが付くくらい近い距離にいたの?」
「あ…教育担当の方が男性で…」
「…ふーん」
そのまま沈黙になる。
こんなの、あからさまな嫉妬なのに、ナナは俺の不機嫌な顔を見て瞳を揺らした。
…この子は本当に、一から言わないといけないのか。
「分かんない?妬いてんの」
「………え」
「先に風呂、入ってきて」
それだけ言って目を逸らした俺に、しばらく停止していたナナは、我に返ったように真っ赤になった。
それから、「い、いいいってきますっ…」と慌ただしく風呂場に駆けて行った。
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