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近づいて分かった。
あの女の体は驚くほどに細かった。顔色も悪いし、きっとあの地下では、死なない程度の最低限の食料しか与えられてない。
それなのに、こんな不健康な生活をしてる俺のところによこすなんて、葉月さんまじでどういうつもりだよ。
キーボードを叩きながら今抱えている何件かの仕事をこなしていると、しばらくしてその女が風呂場から戻ってきた。
どうすればいいのかとリビングをうろうろしていて視界の隅でちらつく。
正直仕事の邪魔で仕方ない。
ヘッドホンを外して振り返ると、その女はビクッと反応した。
「…何もないけど、家にあるものは好きに使って適当に過ごしてくれればいいから」
「あ、はいっ」
「必要なものがあればそこの引き出しに金入ってるから適当に買って」
「すいません…」
申し訳なさそうにしているその女を横目で見ながら立ち上がる。
俺が貸した服は大きすぎて、袖もズボンの裾も何回も折っていた。
「こっち来て」
すぐ横を通るとさっきとは違い、ふわっとシャンプーのいい香りがした。
裸足でペタペタついてくる女に部屋を案内する。
「ここ使って。ベッド俺のだけど普段から使うことないから」
「…ルイさんはどこで寝るんですか?」
「俺はいつもリビングのソファで寝てる」
そう言うと心配そうに俺を見上げてくる。
…その善人みたいな目やめろよ。虫唾が走る。
「それと」
そこで言葉を切って、俺より随分小さいその女を見下ろした。
「夜中は絶対リビングに来るな、いいな?」
「…わかりました」
こうしてこの女…ナナとの奇妙な生活が始まった。
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