分からない

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待ち合わせ場所と時間を決めて、あっという間に当日。 約束の時間の1時間前に、私は翠ちゃんのいる屋敷にいた。 「はい、できたよ。苦しくない?」 浴衣を着付けてくれた翠ちゃんが帯を直しながら聞いてくれる。 「うーん、お腹いっぱいになったらキツイかも」 「どんだけ食べる気なの」 そう言いながらももう少し帯を緩めてくれた。 鏡に映っている自分を見る。淡い黄色の生地に白の花柄の浴衣。髪も翠ちゃんがアップにしてくれた。 「ありがと翠ちゃん」 「結と行くの?」 「うん、そう」 私がよっぽど嬉しそうにしていたのか、翠ちゃんが優しく微笑んだ。 「楽しんでね」 「翠ちゃんはお祭り行かないの?」 「うーん、」 翠ちゃんが難しい顔をして何か言おうとした時、 「翠」 スパンッと襖が開いて葉月さんが中に入ってきた。 今日も相変わらず髪はキンキンだし、ピアス多いし、入れ墨目立つし、眼光鋭い。 着ている黒いシャツは1枚で10万円以上するブランド。こないだネットで見た。 翠ちゃんの彼氏じゃないと絶対話しかけられない。 「ちょっと、まだ着替えてたらどうするの」 「終わってんじゃん」 「もー」 翠ちゃんに責められても全く気にしていない葉月さんは、浴衣を着て立っている私に視線を移した。 「浮かれてんな」 「翠ちゃんと行かないんですか?」 「俺は別に行ってもいいけど、」 「人多いし、ぶつかった人と喧嘩されても嫌だからやめたの」 葉月さんの言葉を遮って翠ちゃんが言った。なるほど。たしかに。 葉月さんはそれを聞いて眉を顰める。 「別に向こうから喧嘩売ってこなければ何もしねぇよ」 「どうだか」 「俺を何だと思ってんだよ」 「ヤクザ」   そんな言い合いを聞いて、ふふっと笑みが溢れた。 すごく仲が良くて上手くいってるみたいで安心した。
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