2人が本棚に入れています
本棚に追加
メッセージアプリ
「――なので、この時の主人公は寂しいと思ったんです。」
友だちがいる主人公に感情移入なんてできない。
だって。
私には友だちなんて今までいなかったから。
現代の国語って、明るい話しかやらないからつまんない。
「じゃあ、ここを阿久栖さん読んでください。」
「…はい。」
何で読まなきゃいけなんだろ。
クスクスと女子が笑っている声が聞こえる。
もう、帰りたい。
そう思って耐えていたら、放課後になった。
ぴこん。
気分にあってない明るい通知音が耳に響いた。
スカートの左ポケットから、スマホを取り出す。
スマホの画面には、母親からのメッセージが表示されている。
[トーク・メッセージで友達出来た?]
リアルでできてないのに、アプリでできるわけないじゃん。
数日前にぼっちな私を気遣って、母親はDMアプリを進めてきた。
しぶしぶいれて、放置したままだ。
ホームルーム中だけど、前の席だからバレない。
しかも私立なのでスマホをいじるのはダメだけど、まぁ生活態度は良い方なので謝ったら許されるはずだ。
仕方なく〈おすすめ〉の一番上の子――立方体と言うアカウント名なのにアイコンが球体――にメッセージを送ることにした。
まぁこのアプリに登録しているのは9割がアクスタだから、多分アクスタの子だろう。説明の欄には「メリメリ×バッドエンド好きです♡」と書いてある。
なんとなく無害そうだな。
[こんにちは。“メリメリ×バッドエンド”好きなんですね。私は主人公のクラスメートのメリス君が好きです。推しって誰ですか?]
どうせメッセージ帰ってこないだろーな。
トークフレンドが79人いたし。
ホームルームが終わり、徒歩で家まで帰る。
Suicaを忘れてしまったので、2駅分歩いて帰ることにした。
残念ながら所持金は128円だから。
家に帰ると、手を洗ってから着替えずに自室のベッドに寝転ぶ。
ぴこりん。
通知音がいつもより大きく聞こえて、画面を見るとメッセージが届いていた。
[私もメリスくん推しです!ていうか敬語辞めない?プロフ見たけど、同い年じゃん。]
た、ため口!?
ヤバすぎる。そんなの初めてだ。
小学生の時から敬語・さん付けのプロだから緊張してしまい、手が震える。
[うん。高校何年生?私は高校1年生だよ。]
何回も見返して、誤字脱字チェックをして。
覚悟を決めて送信。
つまんないって思われないようにしなきゃだ。
そして、少女漫画を見返そうかなと考えた。
面白キャラってどんなこと話してたっけ?
[え。私も!そうだ。無理して面白いこととか言わなくていいからね!ゆるーく話したいから。]
まるで心を見透かしたみたいな内容のメッセージが届いた。
もしかしたら立方体さんは無理をして面白いことを言う友達がいるのかもしれない。
きっと、同じアクスタの子でも明るいんだろうな。
私みたいに生きている間ずっと、フィギュアにいじめられてきた感じじゃないのかもしれない。
「きゃはは!阿久栖さんこっわーい。暗すぎて幽霊みたぁい!」だとか、「ほっそーい!さっすがアクリルスタンド!ダイエット要らないんじゃない(笑)?」とか。
イケメンフィギュアの先輩に告られたら、貰ったラブレターは破かれていた。
フィギュア女子たちのあこがれのクール系アクリルスタンドくんと付き合ったら、プレゼントがごみ箱に捨てられていた。
フィギュアなんて。
キライだ。
立方体さんに会うまでフィギュアを恨みも呪いもしていた。
15人のフィギュア女子にいじめられて、17人のフィギュア男子に罵られた。
これで嫌いにならないってヤバいでしょ。
何回かメッセージのやり取りをして。
会おうとメッセージに書いて。
あの日。
彼女に会えた。
最初のコメントを投稿しよう!