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毒を食らわば皿まで
鬼燈 彌生side
四方をコンクリートで固められた部屋。清潔感のある真っ白なシーツ。消毒液の匂いと静かな呼吸音。それに交じって、隙間から漏れる血や死体の腐った臭い。
規則正しく波打つ胸は、確かに鼓動していた。
「いつまでしみったれた顔してンだよ。直に目ェ覚ますって言ってンだろうが」
「……」
白とは正反対の真っ黒なソファに身を沈めている男の粗雑な声が、耳を掠める。自分だって部屋から出ようとしねえくせに、という言葉は飲み込んだ。
血の海で横たわる女の姿が、瞼に焼き付いている。体温のある手を握っても、安心なんてできない。
でも、このまま夢を見てる方が幸せなんだろうな。
「(……現実は、地獄だ)」
早く目を覚ませと思う反面、待ち受ける地獄の厳しさに憂慮する。目蓋を閉じれば、血の海で横たわる最も大切な女の姿が脳内で再現された。
記憶に焼き付いてしまった最悪な映像だ。握り返されない手を、無意識に繋ぎ止める。
これ以上、奈落に堕ちていかないように
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