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「取り敢えず最中でもどう? これ好きだったでしょ?」
「おー! 旨いんだよなコレ。だけど構わないのか? お供えじゃないん?」
彼女が持って来たのは有名ではないが絶品な地元お菓子。どこにでもそのくらいはあるだろう。
しかしこの辺りの風習ではお供え物は法事に集まった人たちで分けることになっているので、それを知っている彼が一言聞く。
「これはあたしたちのおやつとして買ったんだから」
そんなことを語ると彼女はもう包みを開け始めている。
彼の好物でもあるので買っておいてくれたのかもしれないが、ありがたくその最中を頂くと、朗らかな甘みが広がり、この街の味が懐かしくもなる。
「そんで? 最近はどうなんよ?」
基本的に久しぶりに親戚に会ったらこんな会話になるのだろう。
「それがさー。年かなー、仕事で事務してると肩がこって」
「そりゃあお互いもう若くもないってことだよ」
「この年になると親からも若くないって言われるねー」
グチに近いことにもなるのだが、こんな会話をできるのもこんな関係だからなのかもしれない。
「そうなんだよな。若くないのは自分が一番知ってる、つーの」
「ホントに。年老いるのはお互い様なのにねー」
不老不死の人間なんていない。当然二人の親も年を取っている。そうなると彼らが言われることではないのだが、そこには一つの問題もある。
「あれだな。いつまでも嫁に行かないで家にいるからだ。ばあちゃんもお前の花嫁衣裳見たかっただろうに」
仕事の次はこんなことを聞いてしまうのは当然なんだろう。パターン化しているのだ。
「それは、あたしに限ったことじゃないだろ!」
彼は爆弾を踏んでいた。別に彼女を怒らせた訳じゃない。なんなら彼女は笑っている。
爆弾と言うのは自爆と言うのだ。彼も結婚をしてないので本当に彼女に限ったことではない。
「なんで親ってあんなに結婚のことを言うのかねー」
「ホントーに。最近の子の言い方で言うと、ウザッ。ってやつかな」
「俺らの若い頃もウザイってあったけど、最近の子のあの言葉は破壊力あるよな。これも年を取ったってことか。でも確かにウザいよな」
自爆をしているのが続いてる。
「一応こちとらも当事者なんだからわかってるっつーのってとこだよね」
この時に玄関の開く音が聞こえたが、どうせどちらかの両親だろうと彼女は話を続ける。
「年寄りさんには困っちゃうねー」
知らない人じゃないので文句として聞こえるようにあえて話している。
こんな文句を言えるのも味方がいるときは心強いから話しやすい。
それを聞いていた人がダイニングの扉を開く。そこでは呆れた顔の彼女の両親が、いなかった。
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