愛のあるところにあつまるのか

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「誰が年寄だって?」  現れた人間はまずそう語って二人に詰め寄る。 「姉ちゃんのことじゃないよ」 「そーだよ。姉ちゃんはまだ若いから」  二人が続けて姉ちゃんと呼んで、少し慌てながら語る。  この人物は彼ら二人の親の一番下の妹。つまりおばさんに当たる存在なのだが、年が離れて彼らが子供の頃にはまだ若かったのでそう呼ぶようになっていた。  そして今も親世代ではなくて、それなりに若い。まあそれなりにだ。 「なら、良いけど。二人でどんな話してたんだい?」 「こんな年になると結婚しろって親がうるさいって」 「それは他人事じゃないねー」  彼が説明すると姉ちゃんは腕を組んで空いていた椅子に座った。 「あたしは姉ちゃんが独身をあえて選択してるのかと思った」 「それも有るよ。だけど、一度くらい結婚してみるのも良いじゃない。で? どうなの? おたくらは?」  親でなくてもこんなことを聞かれるのかと二人は一度目を合わせた。 「それじゃあ姉ちゃんも親たちと同類だよ」 「そーだ! そーだ! 年寄りって呼ぶぞー!」  彼が呆れて、彼女はちょっと楽しそうに話す。 「話をはぐらかすってのは、その話題にしたくないってことだね。どうなんだい。こんな私と違って若い二人なのに」  話題にしたくなかったのは本当なので、彼女は少し黙ってしまう。 「俺たちは順番を守ってんだよな? 姉ちゃんが悪い」  しかし彼のほうが対抗すると彼女も「そうだねー」とこれに加わる。 「おたくらってホントーに昔っから仲良しだねー。そんなんだったら二人が結婚しちゃえば?」  静かながら楽しかった会話だったのにこの言葉がガラスにヒビが入ったかのようなパキッという音が聞こえた気がするくらいに空気がピリつく。  すると姉ちゃんは二人の顔を交互に見る。 「悪くもない提案だったのかなー。従妹同士ってのは法的にはなんの問題もなく結婚できるし」  なんか勝手に話が進んで、彼も彼女も相手の顔を見てけん制している雰囲気が漂っていた。  その時にまた玄関から音が聞こえるが今度は存分に賑やかだ。  ワイワイと話している人たちが近付きそれは、彼と彼女の両親で、四人の会話を聞いているとどうやら買い物の店で会ったみたい。 「なんだ? 三人で静かにしちゃって」  一番に現れて三人の姿を見た彼女の父親が首を傾げる。 「ちょっと兄ちゃん。聞いてよ。私の名案」 「なんなの?」「どうした?」「聞かせて」  もちろん楽しそうに姉ちゃんが語り始めるので残りの三人も集まる。 「この二人がさー。結婚もまだなんだから、もういっそのこと二人が結婚しちゃえって思いついたんだよ! そうしたら二人とも黙っちゃうから、これは一理あるのかなー、良い考えじゃない! って」  存分に楽しそうなのは姉ちゃんだけ。誰もがシラーっとした顔になっている。  それでもあくまでこの親戚は楽しいことが好きな集団で「面白いかもな」と言う彼女の父からの言葉があって「親戚付き合いが簡単で良いわ」なんて彼の母も話す。  兄弟三人でそれからもワイワイとどこまで冗談なのかわからないことを話していた。 「それって本人たちの気持ちはどうなんだろう」  ポツリと語るのは彼女の母親。 「そうだよな。本人たちが一番重要だ」  そして同意するのは彼の父親。つまりは冷静なのは連れ合いのほうで、楽しさは彼らの血の責任なのかもしれない。  こうなると五人の視線が彼と彼女の二人に集まる。  彼は彼女のことを見ると、難しそうな顔になる。そして彼女も似た表情をしている。 「この反応は、アリカモ!」  やはり一番楽しそうなのは姉ちゃんだ。  キャーキャーと若干うるさくそれからも騒いでいる。  だけど彼と彼女は呆れてしまってその姉ちゃんの姿をため息をついて見ていた。 「あのさー、姉ちゃん。それとみんな。俺は今回親戚が集合したときに発表しようと思ってたことがあるんだ」  改まった彼が話して、姉ちゃんがまた騒がしくなる。そして彼女はその時に彼を真剣に見つめていた。とても深い瞳が有る。 「俺は結婚することになった」  こんな言葉があると「キャー」なんて姉ちゃんがうるさいけど、これは当人の境遇による叫びも含まれているのだろうか。
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