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「だけど、相手様はこいつじゃないよ」
彼の言葉でみんなが一度落ち着く。彼女も朗らかだ。
「こいつとはあくまでとっても仲の良い従妹だよ。なんなら結婚しなくても一部では夫婦以上の関係じゃないかな」
続く言葉には彼女も頷いている。
「ちょっと待ったー! じゃあ相手は誰なの?」
もちろん気になることだがこんなに騒がしく聞くのは姉ちゃんしかいない。
「みんな知ってる。実家の近所に住んでた子」
一度みんなが考えた。姉ちゃんや彼女の両親も彼の実家には散々訪れている。そして「ふーん、あの子か」と一番に思い付いたのは、昔訪れた時に一緒に遊んだことのある彼女だった。
「そう言うこと。一応主要メンバーに話したからこれで発表はおしまい」
彼が疲れたように語るのだが、その時に彼女が手を挙げていた。ちょっと不安気な表情と一緒に。
「それなら、あたしからも一言話ときたいことがあるんだ」
今の発表からなのでみんなが注目していた。
「実は昨日、付き合ってた人にプロポーズされて、返事はまだなんだけど、受けようと思ってます」
まあこれは良い機会と言うものだろう。だから彼女も話したのだった。
「んで? 相手はどんな人ー?」
もう自分のことなんて忘れて楽しそうな姉ちゃんがいる。
「あたしの方もみんなが知ってる人なんだよねー」
そう語る彼女なのだが、彼女と違って、彼はこの辺りの彼女の知人は知らない。
「ばあちゃんの介護をしてくれてた人なんだ」
「なるほど。あの優しそうで、おとなしくて、朗らかな、一言でいえば気の弱そうな人だ!」
あんまりな印象で姉ちゃんが話すので「ちょっと、姉ちゃん」と彼が呟くが一応間違ってはない。
「そうなんだ。気が弱いんだけど、出会わせてくれたばあちゃんの一回忌の機会にって言われて」
少し照れくさそうな彼女の姿がある。
「そりゃあ、めでたいな」
一番に祝ったのは彼だった。
二人は顔を合わせるとにこやかになる。
これは二人が従妹として仲の良いことを示している。
「あれ? また私が取り残された?」
やっとのことで今の自分の状況に気が付いた姉ちゃんのことは誰もがもう無視をしている。
だってもうみんながガヤガヤと賑やかになっているから。反対する人間はいない。と言うか誰もが祝福している。
恐らくこの騒ぎは法事が終わっても続くんだろう。次に集まるのは明るいことになる。そしてまだその次もそうなる。
「あたしの方が幸せになるんだから、憶えておきなさい」
対抗意識を燃やしている彼女の言葉に、彼はフッとにこやかになる。
「笑わすな」
明らかにその対することになるように語る。
おわり
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