天使信仰の町

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 私はアンバー。この町【サーサカス】の一番大きな宿屋の娘だ。  この町は観光客が多い。おかげで宿屋は大繁盛。  ……と、素直に喜べればいいんだろうけど、現実はこうして、洗っても洗っても終わらない食器や、片付けても片付けても山積みのリネン類など、日々の仕事に追われている。  一日何時間働いているんだろう。絶対ウチってブラック企業。  父がひょいと顔を覗かせた。  またおつかいかな。 「アンバー。それが終わったらおばあちゃんと一緒に教会に届け物を頼む」 「はーい、お父さん」 ***  祖母と一緒に町を歩く。  目的地は大通りにある教会群。  宿屋(ウチ)は大通りに面しているから、教会まではすぐだ。  五分もしないうちに大小の教会群が見えてきた。 「相変わらず、すごい数の観光客だね……」 「まったくのう、じゃが天使様のありがたみが分かっておらんヤツばかりじゃ」  例の昔話をきっかけに、町には天使様を(まつ)る教会が建てられた。  六つあるその教会は『教会群』として、世界遺産として登録されて以降、観光客が増大した。  昔は漁で生計を立てていたこの町だったけど、今では町の収入はほとんど観光業によるものだ。  でもこの観光客の数は異常。オーバーツーリズムってやつだと思う。
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