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教会を出た私たちは、町のはずれに向かう人の群れを見た。
あの人たちも観光客のようだけれど、教会を見に来た人たちとは少し雰囲気が違う。
「おばあちゃん……あの人たち」
「近づくでない。海岸へ行くヤツらじゃ」
教会群を過ぎた先にあるのが、この町の古い海岸。
昔話にある、嵐で船が帰れなくなった時に天使様が現れ、漁師たちを救った場所だ。
しかし観光パンフレットにも載せていない、隠された海岸でもある。
でも、ああして一部の観光客はいわゆる口コミで訪れる。
「いい加減、町長か大司教が海岸を立ち入り禁止にせんもんかの」
祖母は不満を口にした。
天使様に関するものはなんだって敬って発言する祖母だが、あの海岸だけは別だ。
天使信仰の原点とも呼べる場所なのだから、普通に考えればこの町の観光スポットになりそうなものだけど……
あの昔話には、続きがある。
天使様が荒ぶる海を鎮めようと振るった杖の光は、この地域全体へと影響を与えた。
周辺の動物、魔物、エルフまで……その力に魅せられた生き物は多かったという。
力の恩恵にあずかろうと、あらゆる生き物が海岸に集まり……その結果、良い力も悪い力も混ざった、混沌とした力が漂う場所となった。
そこで天使様は、その混沌さを解消しようと一つの仕掛けを残したのだ。
悪しき力がその海岸に残らないように。
清廉とした空気が保たれるように。
「浜辺は力を吸い取り……」
「……全てを無に帰す」
私は祖母の言葉を締めくくった。
これも何度も聞いた話だ。きっとそらで言える。
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