第15話 過去編 朝霧楓と葉月政宗1

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第15話 過去編 朝霧楓と葉月政宗1

 場所は同じ礼願寺。 しかし時間はさらに2年前である1944年に遡る。  時刻は夜21時。  2人の人影がそこには居た。  1人は地味な和服姿だが、20歳くらいの秀麗な顔立ちときれいな長い髪。そして透き通るような肌と、憂いをもつ目がなんとも言えない美しさを醸し出しいる女性だった。  もう一人は対照的に、作務衣を来た、筋骨隆々とした30歳くらいの男性である。食糧難のこの時代にも関わらず、活力にあふれている。髪は短髪にしていたが、髪の先まで何か力があるような迫力があった。  2人は礼願寺のお堂の中で、丸いちゃぶ台を囲みながら、ほうじ茶を飲んでいた。  物資不足の中で、貴重なほうじ茶だった。  しばらく無言で飲みながら、女性が口を開いた。 「また、2人殺されたわ。光子と、咲子。二人とも蘇生して間もなかったから、行く当てもない内に悪質な男に犯されて、そのまま殺されているのが今日分かった」  女性は出来るだけ平静を装うとしたが、唇を強く噛んでいた。 「またか。多いな……この戦争の末期じゃ、どれだけ多くのリターナーが生まれるかわかったもんじゃない。凶悪な奴も多そうだ。呼び方は死人帰りじゃなくてリターナーで良いよな? 姉さん」  男は、眉間にしわを寄せて答えた。 「英語のリターナーで良い。敵の言語だからって、使うのを辞めさせる方がどうかしているのよ。戦争は敵のことを知らなくては勝てない。それはともかくとして政宗(まさむね)。アンタにはやって欲しいことがあるの」  女性は政宗(まさむね)と呼んだ弟に対して、目を見て真剣に口を開く。    政宗(まさむね)はやれやれと思った。こういう時の姉は、だいたい難題を依頼してくることが多いと。今度は何を俺にやらせるつもりなのかと。 「格闘術、殺人術の達人のアンタだからこそ、依頼したい。女性リターナーでも、男性リターナーと互角に闘える。もしくは男性以上に有利に闘える。それが出来る殺人術を開発してほしいの」  政宗は、姉の目を見て、本気で発言していると悟り、頭を抱えた。 「(かえで)姉さんも知っているとは思うが、そもそも男と女じゃ、体格、筋力、速度全てが違う。格闘技の試合だって、男女で分けられていることぐらい分かるだろう……? でもそれをわざわざ俺に頼むのは、本気でそう考えているからなんだよな?」 「アンタは幕末の人斬りや、拳銃を持つ今の兵士の集団ですら素手で楽に全員殺せるでしょう。古代からの格闘術や呼吸法、気の錬成についても詳しい。その政宗じゃなければ、多分誰にも出来ないと思っている。だから頼みたい。無理かしら?」  楓と呼ばれたその姉は、弟の手を取った。幾戦の戦いを経てきたと思えるごつく、そして傷みが浸みこんでいる手だった。 「……無理とは言えんだろうよ。やってもいない内に。目的はやはり姉さんの目標にしている女性リターナーの保護のためか?」  政宗も真剣な顔をして答えた。難題を吹っ掛けられた困った表情は隠せなかったが。 「そう。もちろん『異能力』が使えない女性リターナーも多い。だから体術を身に着けないと、彼女たちが生きていくことは厳しくなる。出来るかしら?」 「通常の常識や概念だと無理だろうな。女性リターナーの体内で何か力を生成するということも限度もあるし無理だろう。何かしら他から力を持ってくることが出来ればだが……」  そこまで考えて、政宗はふと何か思いついた様に表情が変わった。 「姉さん、頭頂部の第七チャクラから息を吸って、それを第六チャクラから順に、第二チャクラの丹田に落としていく方法の呼吸法は今出来るか?」 「やってみる」  目を閉じて、朝霧楓は、宇宙をイメージして呼吸法を何回か繰り返す。  大宇宙にあふれている気を、自分の肉体が受信して、それを体内にとどめるということを、呼吸法で行う。  その後に、政宗は楓の手を握ってみた。かなり熱くなっている。 「こいつは上手くいくかもな。力が無ければ、大宇宙から借りれば良い。女性の方が気の受容体としては優秀だ。あとはどう組み立ててそれを生かすかだが……」  葉月政宗は、ニヤリと笑った。彼はすでに、気の入手方法の効率化や、どの格闘技を組み合わせるか、実用方法に思考を進めていた。  
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