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第18話 現代編 芽衣の探索1
(今日は藤原社長いるよね……)
今日は平日ということあり、芽衣と水月が看護専門学校に通うようになってからは、芽衣は2週間に1度に風俗嬢を『再生掌』でケアをする。
水月の「クソ客から風俗嬢を護衛する」仕事は、さすがに学業と両立するのは無理だったので、今は男性の従業員がその仕事をしている。
フロントの本田の知人に良い人材がおり、格闘技の腕も立つが、女性へのリスペクトもあるということで、ヴィーナス俱楽部の風俗嬢からも信頼を得て仕事をしていた。
水月は以前の神聖千年王国強襲で稼いだ金を、看護専門学校の学費にあて、『煉獄會』の護衛の仕事などを学業に差しさわりのない範囲で行っていた。まだ貯金は十分にあったが、稼げる時は稼いでおきたい水月だった。
そのため平日の芽衣と水月の『陰陽流空手』の稽古も、夜に行っていた。
2人とも今は四段となり、『再命連』の中でも、貴重な戦力となっている。
稽古を終えて、シャワーを浴びた芽衣は1人で、藤原社長が社長室にいることを確認し、社長室をノックする。
目的は、以前に出会った葵清十郎について聞くためだ。
「どうぞ」いつも通りの藤原社長の低い声が聞こえ、「失礼します」と芽衣は入る。
藤原社長は、ノートパソコンを打っていたが、芽衣が入ってくるのを確認し、動作を止めた。
「どうした? まず座りなさい」と藤原社長は、芽衣をソファに座るように促した。
「ありがとうございます」と芽衣はソファに腰掛ける。
「今日は紅茶になるが、飲むか?」と藤原社長は尋ねた。
「はい。頂きます」と芽衣は嬉しそうに答えた。
まじまじと芽衣は藤原社長を見た。藤原社長に拾われたのが12歳の時で、今の自分が21歳と考えると、もう拾われてから9年になる。
藤原社長はリターナーだから年を取らないのだけど、25歳ぐらいの年齢にしているのは、おそらくリターナー外見をその年齢にする『外見屋』にそうしてもらっているのだろうと芽衣は考えた。相変わらず本当に美しい人だなあと、芽衣は紅茶を飲みながら、藤原社長の顔や目、鼻、そして気品に注目してしまった。
「私の顔を見ても何も出ないぞ。今夜はどうした?」と、藤原社長は芽衣の目を見ながら尋ねた。
「あの……実は『再命連』に所属していないで、『陰陽流空手』を使う人と会ったんです。名刺ももらってしまって。この人って知ってますか?」
言いながら芽衣は、葵清十郎の名刺をテーブルの上に置き、彼と出会った時の女子高生を救出したいきさつも話した。
藤原社長は、芽衣の話を聞き、じっと名刺を見たあと、フフッと笑った。
「清十郎か。知っている。私の知人でもある」
そう言いながら藤原社長は紅茶を飲んだ。
「藤原社長の知人なんですか! あの……この清十郎さんはどんな人なんですか?」
芽衣としては驚いた。リターナーは基本的に20歳以上は加齢しない。清十郎は20代後半に見えたということは、彼も外見を『外見屋』に変えてもらっているのだろうかと芽衣は考えた。
「清十郎にいちいちさんをつけなくても良いぞ。どういう人かか……興味深い部類の男に入るんじゃないかな」
藤原社長は、笑みを浮かべながら、芽衣にとっては良く分からない回答をした。
「興味深いって……具体的にどのあたりでしょうか?」
芽衣は不思議そうな顔をして尋ねた。
「真示とはまた違った、興味深さはある。気になるか?」
藤原社長こそが、興味深そうな目をして芽衣を見ている。
「それは……なんで『陰陽流空手』が使えるとか、女性に優しいとか……多少は気にはなりますけど」
芽衣としては、藤原社長に聞けば、色々と教えてくれると思っていただけに、わざと教えてくれないことが気になった。(もしかして、興味深いっていい男って意味なのかな)とも考えたが確信は無かった。
「もらったのは仕事の名刺だろう。清十郎が仕事をしているところも分かる。気になるなら自分で調べれば良い。名刺の裏には大阪に1店舗。名古屋に2店舗と書いてあるだろう?」
藤原社長は面白げに、名刺をひっくり返して解説をしてくれた。
「でもこれ、姿勢矯正のお店ですよ」
芽衣はリターナーの自分には縁が無い分野の店だと思った。自分は20歳の身体を保っているはずだからだ。若い自分には関係ないと。
「芽衣、お前は自分では自覚がないと思うが、結構な猫背だぞ。『再生掌』は怪我や痛みの治療は出来るが、慢性的な猫背までは効かないだろう。まあ行くか行かないかは自分で判断することだな」
藤原社長はまるで保護者の様に、にこやかな表情で答えた。
その後、猫背と言われ、ショックを受けて部屋に帰った芽衣は、猫背が本当かどうか水月にも聞いてみた。
「芽衣に対して、私は正直でいたいと思うから正直に言うと、猫背だと思う」
水月の曇りなき即答だった。
藤原社長と水月から事実を突きつけられ、げんなりとした芽衣が、悩んだ末に清十郎の姿勢矯正の店を検索してネット予約したのは、その日の深夜だった。
(本当ショックなんだけど……)
げんなりしつつも清十郎に会う機会が出来たこと自体は、そんなに悪くはないと思う感情が交錯し、揺れる芽衣だった。
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