第18話 現代編 芽衣の探索1

1/1
前へ
/18ページ
次へ

第18話 現代編 芽衣の探索1

(今日は藤原社長いるよね……)  今日は平日ということあり、芽衣と水月が看護専門学校に通うようになってからは、芽衣は2週間に1度に風俗嬢を『再生掌』でケアをする。  水月の「クソ客から風俗嬢を護衛する」仕事は、さすがに学業と両立するのは無理だったので、今は男性の従業員がその仕事をしている。  フロントの本田の知人に良い人材がおり、格闘技の腕も立つが、女性へのリスペクトもあるということで、ヴィーナス俱楽部の風俗嬢からも信頼を得て仕事をしていた。  水月は以前の神聖千年王国強襲で稼いだ金を、看護専門学校の学費にあて、『煉獄會(れんごくかい)』の護衛の仕事などを学業に差しさわりのない範囲で行っていた。まだ貯金は十分にあったが、稼げる時は稼いでおきたい水月だった。  そのため平日の芽衣と水月の『陰陽流空手』の稽古も、夜に行っていた。  2人とも今は四段となり、『再命連(さいめいれん)』の中でも、貴重な戦力となっている。  稽古を終えて、シャワーを浴びた芽衣は1人で、藤原社長が社長室にいることを確認し、社長室をノックする。  目的は、以前に出会った葵清十郎(あおい せいじゅうろう)について聞くためだ。 「どうぞ」いつも通りの藤原社長の低い声が聞こえ、「失礼します」と芽衣は入る。  藤原社長は、ノートパソコンを打っていたが、芽衣が入ってくるのを確認し、動作を止めた。 「どうした? まず座りなさい」と藤原社長は、芽衣をソファに座るように促した。 「ありがとうございます」と芽衣はソファに腰掛ける。 「今日は紅茶になるが、飲むか?」と藤原社長は尋ねた。 「はい。頂きます」と芽衣は嬉しそうに答えた。  まじまじと芽衣は藤原社長を見た。藤原社長に拾われたのが12歳の時で、今の自分が21歳と考えると、もう拾われてから9年になる。  藤原社長はリターナーだから年を取らないのだけど、25歳ぐらいの年齢にしているのは、おそらくリターナー外見をその年齢にする『外見屋(がいけんや)』にそうしてもらっているのだろうと芽衣は考えた。相変わらず本当に美しい人だなあと、芽衣は紅茶を飲みながら、藤原社長の顔や目、鼻、そして気品に注目してしまった。 「私の顔を見ても何も出ないぞ。今夜はどうした?」と、藤原社長は芽衣の目を見ながら尋ねた。   「あの……実は『再命連(さいめいれん)』に所属していないで、『陰陽流空手(いんようりゅうからて)』を使う人と会ったんです。名刺ももらってしまって。この人って知ってますか?」  言いながら芽衣は、葵清十郎(あおい せいじゅうろう)の名刺をテーブルの上に置き、彼と出会った時の女子高生を救出したいきさつも話した。  藤原社長は、芽衣の話を聞き、じっと名刺を見たあと、フフッと笑った。 「清十郎か。知っている。私の知人でもある」  そう言いながら藤原社長は紅茶を飲んだ。 「藤原社長の知人なんですか! あの……この清十郎さんはどんな人なんですか?」  芽衣としては驚いた。リターナーは基本的に20歳以上は加齢しない。清十郎は20代後半に見えたということは、彼も外見を『外見屋(がいけんや)』に変えてもらっているのだろうかと芽衣は考えた。 「清十郎にいちいちさんをつけなくても良いぞ。どういう人かか……興味深い部類の男に入るんじゃないかな」  藤原社長は、笑みを浮かべながら、芽衣にとっては良く分からない回答をした。 「興味深いって……具体的にどのあたりでしょうか?」  芽衣は不思議そうな顔をして尋ねた。 「真示とはまた違った、興味深さはある。気になるか?」  藤原社長こそが、興味深そうな目をして芽衣を見ている。 「それは……なんで『陰陽流空手』が使えるとか、女性に優しいとか……多少は気にはなりますけど」  芽衣としては、藤原社長に聞けば、色々と教えてくれると思っていただけに、わざと教えてくれないことが気になった。(もしかして、興味深いっていい男って意味なのかな)とも考えたが確信は無かった。 「もらったのは仕事の名刺だろう。清十郎が仕事をしているところも分かる。気になるなら自分で調べれば良い。名刺の裏には大阪に1店舗。名古屋に2店舗と書いてあるだろう?」  藤原社長は面白げに、名刺をひっくり返して解説をしてくれた。 「でもこれ、姿勢矯正のお店ですよ」  芽衣はリターナーの自分には縁が無い分野の店だと思った。自分は20歳の身体を保っているはずだからだ。若い自分には関係ないと。 「芽衣、お前は自分では自覚がないと思うが、結構な猫背だぞ。『再生掌』は怪我や痛みの治療は出来るが、慢性的な猫背までは効かないだろう。まあ行くか行かないかは自分で判断することだな」  藤原社長はまるで保護者の様に、にこやかな表情で答えた。    その後、猫背と言われ、ショックを受けて部屋に帰った芽衣は、猫背が本当かどうか水月にも聞いてみた。 「芽衣に対して、私は正直でいたいと思うから正直に言うと、猫背だと思う」  水月の曇りなき即答だった。  藤原社長と水月から事実を突きつけられ、げんなりとした芽衣が、悩んだ末に清十郎の姿勢矯正の店を検索してネット予約したのは、その日の深夜だった。 (本当ショックなんだけど……)  げんなりしつつも清十郎に会う機会が出来たこと自体は、そんなに悪くはないと思う感情が交錯し、揺れる芽衣だった。
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!

20人が本棚に入れています
本棚に追加