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第6話 現代編 芽衣の合コン2
芽衣が、自分の生きていく道を決めたこと。
それは『再生掌』の能力が上がったことにより、毎日マッサージケアをしなくても良くなったので、勉強する時間が確保できたことも大きかった。
それで芽衣は今、名古屋市内の看護専門学校に通っている。
看護師を目指したのは、人体の構造を知る事でより『再生掌』の力が向上するのではないかという予感と、人の役に立ちたいという芽衣の願望と、比較的安定的な収入を得られるということが理由だった。
体力ならばリターナーは、人間の5~10倍の体力があるため、適職だと考えたことも大きい。
そして実際に、人体の構造を知る事で『再生掌』の効力も向上したのだった。
芽衣は仕事を終えて、藤原社長に報告をすると、ヴィーナス倶楽部の自分の部屋に戻った。
この部屋は、同じリターナーの水月も生活しており、ルームシェアをしている。
水月は既にベッドに入って寝ているようだった。
芽衣はシャワーを浴びると、自分のベッドに入った。
部屋の大きさは2DKであり、水月とは寝室は別になっている。
芽衣にとって水月は親友であり、頼りになる戦友でもある。同じ看護専門学校に通う学友でもある。
水月は性被害を受けた事が原因で男性嫌悪になり、そのトラウマから、現在はカウンセリングを受けている。
本当は深い心の傷を持っているのだが、それを表に出さないでいるのか、傷の痛みすら麻痺しているのか、芽衣には分からなかった。
ただ芽衣は水月が幸せになって欲しいと思うばかりだった。
それにしても……芽衣も水月の心配だけをしている場合ではなかった。
芽衣には好きなリターナーの男性がいる。
しかしその恋はどう考えても実る可能性はゼロだった。
その男性は真示と言い、芽衣にとっても頼れる友人でもあり、尊敬できる友人でもある。
真示は小学生からずっと想っていた人間の女性と、最近やっと結ばれたと聞いて、芽衣の心は張り裂ける様な痛みが走った。
なんとかこの痛みや苦しみをどうにかして、私は前に進まないと……と芽衣は思うものの、具体的に何をしたら良いのかまでは分からなかった。水月には随分と話を聞いてもらったと、水月のありがたさには芽衣はずっと感謝している。
ベッドに横になって寝ようと思っても眠れず、ため息をついていると、引き戸で仕切られている水月の部屋から声が聞こえた。
「芽衣……起きてる?」
シャワーを浴びて出来るだけそっと部屋の中を移動したのに、水月を起こしてしまったのかと思って、芽衣は驚きと同時に申し訳なくなった。
「水月……ごめん、起こしちゃったかな」
「いや、私も今夜は寝つきが悪くてさ。気にしなくて大丈夫。それよりちょっと話せる?」
水月のいつも通りの声だった。芽衣は安心した。
「うん。大丈夫だけど……どうしたの?」
「看護専門学校の恵理から言われたんだけど、今度名古屋大学のサッカー部と合コンやるんだってさ」
水月の声は、喜びもワクワクも全く感じない声だった。
「合コン……」
芽衣は全く合コンとやらに参加したことは無かった。小学校からいじめを受けて中学、高校とも通信制で人と会うのを避けていたからというのもあった。
恵理は看護専門学校で出来た友人で、すごく仲が良いという訳では無いが、普通に話が出来る友人ではある。
「でさあ。私はほら男性嫌悪のカウンセリング治療中だから、参加するモチベとかないんだ。それで……何か女子の人数が1人足りないって恵理からチャットが来てんだよね。芽衣、無理にとは言わないけど興味ある?」
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