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だが、思わぬ形で、転機は突然訪れた。
秋になり、図書館恒例の「秋の読書まつり」の企画会議が行われたんだ。
特設コーナーを担当することになったのは、今年配属されたばかりの依田美有樹さんという若い女性図書館員だった。
そして、彼女は、「秋の夜長は、難解ミステリーにチャレンジ!」というテーマを提案した。
「いつでも読める本ではなく、読書にぴったりなこの季節に、日頃あまり動きがないジャンルの良い本を紹介したいと思うのです。この手の本は、装丁が凝っていて展示しても見栄えがする物が多いですから、特設コーナーに置いても映えると思います」
「そ、それで、選書はどうするんですか?」
そう言った綿貫さんを始め、ほかの職員さんたちは、どうやら「難解ミステリー」はあまり読んだことがないようで、ちょっと困惑した顔で依田さんを見ていた。
機械化が進んで、職員の数も減っているから、みんな余計な仕事を増やしたくないのだろう。
そんな雰囲気は気にせず、依田さんは自信たっぷりに言った。
「わたしが、選書をしてリストを作りますので、確認していただけますか?」
「わ、わかりました。でも、わたしは『難解ミステリー』に詳しいわけじゃないから、依田さんの選書眼を信じることにします」
「ありがとうございます! では、さっそく」
依田さんは、ワゴンを押してくると、文学の棚を行ったり来たりしながら本を集め始めた。
彼女の頭の中には、すでにリストが出来上がっていて、該当する本を探しているという感じだ。ということは、彼女はかなりの数の「難解ミステリー」を読破しているということなのではないだろうか?
僕と相棒は、彼女が僕たちの収まっている書架へ来るのをワクワクしながら待っていた。
(どうか、依田さんが、『虚無に捧げる伝説の青薔薇に名前はない』を読んだことがありますように! 文庫版ではなく、美麗な装丁の僕らを選んでくれますように!)
依田さんが、僕たちの前に来て立ち止まった。
「あっ、これも!」
彼女はそう言って、まず僕をつかんでワゴンへ入れた。そして、その直後に相棒をつかんで僕の横に置いた。
僕たちは、ワゴンの中で「難解ミステリー」の一冊として選ばれた喜びに浸っていた。
ついに、再び僕たちが脚光を浴びる日が来たのだ!
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