繋ぎ眼から

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繋ぎ眼から

 手帳を開くとふわっと大好きが鼻を過る。日焼けのせいか濃淡のある赤茶色のページには少しガタついた文字の羅列。ページを捲るたびに肌触りの良さが指先に伝わって、妙に心が昂ってしまう。  栞の挟んであるページまで来ると、私は今日の日記をそこに綴る。些細なこと、他愛もないこと、そして大好きなアナタへの片思い。  教室の片隅で勉強か読書しかしない私はいるかも分からない幽霊のような存在。誰とも話さないし、声を掛けることもない。眼鏡のレンズに映る景色は騒々しくて、モラリストのいない場所に溜息を吐く。大人も子供も所詮、自分達の意見をまかり通すためにズル賢いことをする。  そんな場所でも彼だけは違う。荒廃した街を照らす太陽のようで、動き出せば不思議とみんながまとまって花が咲き乱れる。自分には決してできないことで思わず感嘆の声を漏らしていると、彼は私にも手を伸ばしてきてくれた。周りは羨望と嫉妬の眼差しを向けてくるけど、アナタはそんなことも気にせずにいつも笑顔を振りまく。  もちろん誰にでも同じ顔をすることは分かっている。でも、それを承知で恋をしてしまった。レンズ越しの彼はいつも私を見つめているようで、恥ずかしくなって思わず眼鏡を外す。ぼやけた視界の先は眩し過ぎて、あまりにもかけ離れている。  告白する勇気もなくいつまでも弱いまま、彼が稀に喋りかけてくるその時だけで深い関係性にはなれない。だから、せめてあの人への想いは本物だと信じて書く。もし付き合ったら行きたいところ、やりたいこと、その後のことを妄想して世界に浸る。  アナタにペン先が触れて言葉を滲ませる。頭まで蕩けるような深いクチヅケ、匂いが混じり合ってクラクラする。  荒々しい息が無抵抗に漏れて、熱気のこもった薄暗い部屋で私は絶頂する。
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