繋ぎ眼から

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  *  朝起きてすぐの微睡みの中、通学時の電車で揺られている時、退屈なだけの授業、エネルギーを摂取するだけの作業のような昼食……どんな時でもアナタを思い浮かべる。それだけで眼前に広がる鈍色の景色は彩を取り戻す。  静寂に包まれた誰もいない放課後の図書室で手帳を広げると、鼓動が高鳴り全身に喜びが充満。一度も出すことなく鞄に入れていたせいで私の匂いと手帳からなるクセになる香りが淫らに混ざり合って脳を痙攣させる。噎せ返るほど甘くて、心を燻り全身を包み込んで放さない。  二人だけの文芸活動は終わりを知らない。本物の妄想を眼前の空白に埋めて、愛しい傷を刻み込む。その度に自分の体温が高くなるのを感じて疼く。見つめられているようで、その視線を独り占めしているこの感覚は背徳的で他のことでは味わうことができない。 「あっ、居た。ちょっといい?」  ドアが開けられると咄嗟に手帳を鞄の中に隠した。  私達だけの居場所に土足で踏み入れてきたのは、確か彼に付き纏うクラスメイトの女。教室では女子の中心的な存在。髪も染めているし、化粧もしている……言わば年相応に派手なこの人は私のような地味で目立たない女には絶対に話しかけてこない。  彼女は機嫌が悪いのか、私を見るなり疑いの孕んだキツイ視線を向けてくる。 「えっと……」 「最近、アイツ来ないんだけど知らない?」  アイツとはおそらく彼のことだ。学校に来なくなって一週間ほど、教室は翳りを生んで静けさを取り戻した。元より何事もなく読書ができたらそれで良いと思っていたから自分としては何の問題もない。だけれど、この人にとってはそれが不満らしい。  彼女が徐々に寄ってくると、私を見下すようにして机にバンと手を置いた。その音が閑散とした室内にこだまして耳をつんざく。 「知らないです」
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