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「あんたさぁ、アイツのことずっと見てたよね? 喋りかけられたからって勘違いしたストーカー女ってみんな呼んでるよ。知らないわけないじゃん」
「本当に知らなくて……」
「嘘つき」
彼女は憎悪を含んだおぞましい瞳で私を捉える。思わず目を背けてしまいそうになるも、横の椅子に置いた鞄を取り上げようと腕を伸ばす。私の理想と妄想が敷き詰められた手帳、命よりも大事で肌身離さず持っていた。それを誰かに見られるなんて、想像するだけでも吐き気を催す。
絶対に見られたくない。もうすぐで手が届きそうになる……でも私は天井を見上げていた。押し倒されたと分かった瞬間、背中に痛みと衝動が巡り思考すらもぐちゃぐちゃにしてしまう。
「あたしがドアを開けた時、何か隠してたでしょ?」
「やめて……それに触らないで……!!」
彼女は蟻でも潰すように容赦なく私の腹を踏みつけて拘束してくる。やっと出た掠れた要望も虚空へと散って、とうとう鞄の中に手を突っ込まれた。一つずつ机の上へと放り出され、怪しい物がないかと徹底的に目を通す。
足を払いのけようとするも彼女はその度に踏み直し、内臓から伝う気持ちの悪さから嗚咽を誘発。この状態で私は何もできず抵抗しても反逆が待っているだけ、手慣れているのか弱い者を倒す方法をこの女は熟知している……そんな人間に私が勝てるはずもない。
絶対に守らなければいけない秘密なのに、こうも簡単に暴かれようとしている。私は自分の情けなさを恨み血が滲むほど唇を噛む。頬を流れる涙はどこまでも私を象徴している。
「まだある。なんかブヨブヨしてるのがあるけど……なに、これ……?」
情けない姿の私は彼と目が逢った。本当の自分をどこまでも認識するかのように見られている……そんな気さえして頭がどうにかなりそう。
「なによこれ、気持ち悪い……!! もしかして皮膚……?」
彼女は表紙を見るなり血相を変えて喚く。その感触を知ると何よりも大事な手帳を床に落とし、禁断のページは無造作に開かれた。
彼への愛で満たされた恋文。何ページにもぎっしりと、二人だけの空間が満足も知らずに綴られている。そんな世界に第三者の目が過去を追い、現在を拒絶する。
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