熱血変顔ゴリラ事件

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 廊下の突き当たりを曲がると、すぐにトイレがあった。  扉が全開で、手を洗っている浦末君が丸見えだ。 「何でここのトイレ使ってんの?」 「うわ! 市川(いちかわ)! 男子便覗くなよ!」  真弥ちゃんが声をかけると、浦末君は袖を引っ張って左手を隠した。  長袖を着ているなんて珍しい。  濡れた手で触った袖は色が変わっている。 「袖、濡れてるよ」 「新島(にいじま)……!」  わたしが声をかけると、浦末君は左手を背中に隠した。 「何隠してんの?」    真弥ちゃんがすぐに聞く。 「は? 何も隠してねえし!」  浦末君は動揺している。 「じゃあ見せて」 「あ! 女子が男子便に……!」  真弥ちゃんはトイレの中へ入り、浦末君の左手を掴んだ。 「や、やめろ! ゴリラ女っ!」  必死で抵抗する浦末君の左手を片手で掴み、浦末君の握った拳を無理やり開かせようとする真弥ちゃんを見て、真弥ちゃんが初めてゴリラと呼ばれた時のことを思い出す。    三年生の三月のことだ。  男の子が二人、絞った雑巾でキャッチボールをしていた時、その雑巾が飛んできて、わたしの顔に当たった。  男の子に「汚ねっ」と笑われ、恥ずかしさもあってわたしは泣いてしまった。  その時、真弥ちゃんが「汚ねっ」と言った男の子の腕を掴み、拾った雑巾を顔に押し付けたのだ。  必死で逃げようとする男の子を片手で捕まえている真弥ちゃんを見て、浦末君が「力強っ! ゴリラかよ」と言った。  男の子を放した後、真弥ちゃんはわたしに「カタキは取ったよ」と言って、にっこりと笑った。
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