熱血変顔ゴリラ事件

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「何これ? らぶ……?」    ついに、真弥ちゃんが浦末君の手を開かせた。 「放せ!」  浦末君が真弥ちゃんを振り払う。  一瞬だけ見えた浦末君の手の平には、大きなハートが描かれていた。  ハートの中に英語で何か書いてあるけど、わたしには『LОVE』と『SA』しか読み取れなかった。 「ふうん」  真弥ちゃんはにんまりしている。 「くそ! 兄ちゃんめえ!」 「お兄ちゃんが書いたの?」 「……昨日ケンカして、夜寝てる間に書かれたんだよ。誰にも見られないように遠くのトイレまで来たのに……」  浦末君はそう言って、ちらっとわたしを見た。 「……新島も見た?」 「ハートは見えちゃった。文字は読めなかったけど……」  わたしが答えると、浦末君はほっとした顔をした。   「ところで聞きたいことがあるんだけど」 「何だよ」  真弥ちゃんが聞き込みを始める。   「昨日の放課後何してた?」 「昨日はすぐ家に帰って、兄ちゃんとゲームしてたけど?」 「本当でしょうね?」 「本当だよ! そのゲームが原因でケンカになったんだから!」    浦末君は握った左手を突き出した。   「石けん使っても落ちないし……。油性マジックで書くとか悪魔だよ」  そう言いながらトイレから出てきた浦末君は「市川! 誰にも言うなよ!」と叫び、走って行ってしまった。  真弥ちゃんもトイレから出てくる。   「兄弟って、恋バナもするのかな?」 「え? わからない……わたし、一人っ子だから」 「あたしも。お兄ちゃんいいなあ」  静かな廊下に、真弥ちゃんの声が響く。  今、ここには真弥ちゃんと二人きり。 「真弥ちゃん、あのね……」 「そうだ!」    わたしと真弥ちゃんの声が重なった。 「さおりちゃん、ノートに『油性マジックで書く悪魔』って書いて!」 「う、うん」  言われた通りに書いてから、わたしたちは教室へと戻った。
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