空々と虚ろ

1/39
前へ
/39ページ
次へ
 よう。君らは元気にやっているのかい? それは良かった。  ワープロソフトを立ち上げるのに、かれこれ十日もかかっちまった。おれも案外、薄情じゃなかったらしいな。  こういうときは、ええっと、自己紹介がセオリーなのかな。もういささか古いカンジなのか? まあいいや。おれの名は雨槌玻澄(あまつちはすみ)。どこまでもカッコ良い名前だぜ。  ……身体がフラつく。アイツらの元から逃げ帰ってきてずっと、吐き気とフラつきが消えやしねえ。最愛にして唯一の肉親の弟がいなくなったからでも、きっとねえんだろうなあ。  なあ。  これを聞いている皆に、ひとつ頼みがあるんだ。  全部これをきっちり聞けとか、そういう贅沢は言わねえさ。お手元のスマホをちょちょいとほんの数回タップすれば、マンガアプリでも動画サイトでも、世の中の娯楽は腐るほどあるんだし。  ただ頼む、……広めてくれないか。この動画の存在を。  目的? それこそ、最後の方までのお楽しみだ。引っぱって悪いが、まあ聞いちゃってくれ。  ……少しむせた。大丈夫か今の咳? なんかこう……BPOだっけ? 的な奴に引っかからない? テレビだっけそれ?  とにかくこんな風にして、おれの寿命はもう長くない。見た目だけなら完全な健康優良児のおれが、どうしてそんなに命を縮めちまったのか。それも、今からおれのする話のなかで、大方は分かってもらえると思う。  それじゃ始めるか。  話を。
/39ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加