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カメラを渡して、数日後。
見るからに嬉しいことがあったと分かるぴっかぴかの笑顔をして、リクは家に帰ってきた。
「お兄! あのね、あのね、聞いて!」
「おー、どうした」
短パンの裾をぐいぐい引っ張ってくるので、「いま包丁持ってるから、あとでな」
と諭す。だが、まだ小学一年のちびっこには、その危険性がよく分からないらしい。催促はいっこうに止む気配を見せなかった。
「早くしてよ早く」
「わかった、わかった! 聞くから、まず手を離してくれ」
珍しく半額になっていた豚肉を切り刻むのをストップし、おれは弟に向き直った。じゃがいもも安かったので、ゴロゴロほくほくの豚じゃがを作ってやろうと思っていたのだった。
「何々? なんか良いことあった、学校で?」
「カメラで撮った写真をね、鏡くんに渡したの」
「おー、……そうか」
さっそく、カメラの奴が役に立ってくれたようで何よりだ。
「どんな写真を撮ったんだ?」
おれにも見せてくれよ、と言いかけて、そうか、あれは一枚こっきりなんだっけ、と思い返す。彼のために撮った写真は、彼のもとにしかきっと行かないのだ。なんだか甘酸っぱい気分になる。おれもこういう青春がしてみたいもんだぜ。もちろん美女とな!
悪質な微笑みを浮かべる親友を全力で脳内から追っ払い、弟の返事を待つ。おれが考え込んでいたからか、早く言いたそうにソワソワしながら待ってくれていたのだ。ごめんな。
「今日は早く学校終わって、夕焼けは撮れなかったからね。鏡くんといっしょに、うさぎ小屋で写真撮ったの」
テーブルに着いて、弟の話に耳を傾ける。
なんでも、うさぎ小屋の鍵を開けて(ちょうどその週、リクはうさぎのエサやり当番だった)、二人が中に入った瞬間、――うさぎがほとんど全部、鏡の足元に猛ダッシュしてきたらしい。
「鏡くん、すっごいワタワタしててねー。面白かった! 足元で動き回ってたから、ひえぇ、って座りこんじゃって。そしたら、その座ったひざの上にも我先にくるから、もう、おかしくって」
でも、最終的にはうさぎも落ち着いて、周りを囲みながら大人しく撫でられていたらしい。その一連の光景を想像して、おれは危うくツボるところだった。
「なんだそりゃ……。ふふ。お前の友達、かわいいな」
「ぼくがキャベツ持っていっても、ぷいってして、見向きもしないんだもん。ちょっとくやしかったなー」
「そりゃ相当好かれてんな。アイツら、エサやったら大体寄ってくるのに」
「くいしんぼだからね、あのコたち」
その、囲まれてるときの写真をね、面白かったから撮ってきたんだよ、と言って、はにかむ。
それを見て、仲良くやって行けそうだな、と、とりあえず安心した。
その日は肉じゃがが上手くできた。弟もこころなしか、いつもよりおいしそうに、夕飯を食べていたと思う。
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