空々と虚ろ

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       ◇  部屋のドアを軽く、コツ、コツッ、とノックする。返事はいつもの通り、返ってきやしない。 「入るぞー」  ディスプレイに貼り付いていた後ろ姿が、振り返る。バサバサした白髪の先が、耳元で揺れた。この世の全ての人間を見下しながら生きてきたみたいな目をした奴だ、と思うのも、まあ大方、いつも通りだ。 「話は聞いているぞ、玻澄よ。また、厄介なのに係っちまってるもんだな」  面白そうににんまりと目を細めて、おれの親友、霧桐浄喜(むとうきよき)はそう言ってきた。 「誰から聞いたんだよ」 「秘密だ。人間如きに、そんな重要リソースを開示できるわけがないだろう」 「じゃあ誰にオッケーできるってんだよ……」  どこからともなく仕入れてくる情報の源が謎だったり、人間を下等生物と見なしていたりと、まあ難アリだが、良い奴だ。なので、困ったことがあったら、大体キヨに相談している。  おれもおそらく下等生物カテゴリに振り分けられているっぽいフシはあるものの、彼なりに親身に話を聴いてくれているようだ。 「知ってんなら、早くていいや。なあ、どうすれば良いと思うよ? おれ、弟の身に危険が及ぶなんて、そんなのヤだぜ」  引き離した方が良いのかな?  自然と口から出た言葉だった。  日本人離れした翠の瞳が、ゆっくりと細められた。それを見て、おれは、あ、やべえ、と思った。何か機嫌を損ねるようなことをしでかしたとき、彼の瞳はこんなふうに、ぎゅっと限界まで細められて見えなくなるのだ。 「……なぜ、そう思うのだ」  キヨが、ゲーミングチェアごとゆっくりと回転し、こちらに向き直った。  椅子から下り、おれの前の床に胡座をかく。座れ、と言われたので、その正面にすとん、と腰を下ろした。肩を両手で優しく、掴まれる。 「訊きたい事がある。……私を初めて見た時、どのように感じた?」 「えっ……と。あの、……どういう流れですかね?」
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